前回は、東京電力も活用していると言われるオランダの「資本参加免税制度」の概要を説明しました。今回は、M&Aと国外親会社を活用したグローバル節税の事例を見ていきます。

統合後の本社をオランダに置いた東京エレクトロン

2013年9月24日、半導体製造装置で世界第4位だった東京エレクトロンは、同世界1位の米アプライド・マテリアルズと経営統合して、統合後の持株会社をオランダに置くことを発表しました。

 

10か月後の2014年7月8日の発表では、新会社名を「エタリス」とし、経営統合は同年後半に完了の見込みとなっています。経営統合後の売上は1兆3000億円となり、世界最大となります。統合持株会社の株式は、米ナスダックでの上場に加え、東京証券取引所においても「外国株式」として上場される予定です。

 

ちなみに、半導体製造装置で世界第2位のASMLもオランダに本拠地を置く企業で、オランダの名門会社であるフィリップス・エレクトロニクスとASMIとのジョイントベンチャーとして1984年に設立されました。同社の税引き前利益に対する実質的な税負担は直近の5年平均で10%未満です。

 

さて、新会社エタリス(旧東京エレクトロン)のスキーム図(図表1)には、日本、米国そしてオランダの3国の会社が載っています。少々複雑ですが、まずTELアプライドHD(東京エレクトロンが資本金1ユーロでオランダに設立した持株会社)と、その下につくった受け皿会社のTELジャパン、そして東京エレクトロンが三角合併します。東京エレクトロンの株主は合併会社の株式ではなく、オランダ持株会社の株式を、東京エレクトロン1株につき3.25株の割合で受け取ることになります。

 

【図表1 エタリス(旧東京エレクトロン)のスキーム図】

 

三角合併とは、たとえばA社がT社を合併するときに、T社株主に対してA社株式ではなく、A社の親会社であるP社の株式を交付する場合をいいます(図表2)。日本では2007年5月から認められ、これにより親会社株式を対価とする三角型の組織再編について一定の条件を満たせば、課税の繰り延べが認められました。三角型の組織再編とは、専門的になりますが、三角合併、三角株式交換、三角分割を指します。

 

【図表2 三角合併の関係図】

ただし、会社法で三角合併が認められてから現在まで7年が経過しましたが、日本の会社が外国企業に買収(完全子会社化も含む)された例は、2007年の米シティグループによる日興コーディアルグループの三角株式交換による完全子会社化と、東京エレクトロンとアプライド・マテリアズの三角合併の2ケースのみであるといわれています。

日本では課税対象になる「逆三角合併」

東京エレクトロンの三角合併には、さらに先があります。

 

オランダ持株会社(TELアプライドHD)は米国にも受け皿会社を設立します。その受け皿会社とアプライドが合併し、アプライドの株主は、アプライド株1株につき持株会社の株式1株を受け取ります。

 

これは逆三角合併といわれるもので、先ほど説明した三角合併での「A社がT社を合併するとき」のスキームとは逆になります。A社の側がT社に合併され、T社株主に対してはA社株式ではなく、A社の親会社であるP社の株式が交付されます。しかしながら、日本の会社法ではこの逆三角合併を認めていません。そのため、日本で逆三角合併を行った場合は課税対象となってしまいます。

 

いずれにせよ、このようなスキームで東京エレクトロンが法人税率の低い国に本社を移転し、日本の旧東京エレクトロンがその子会社になるというのは、第9回で紹介したコーポレート・インバージョンに当たります。

本連載は、2014年10月1日刊行の書籍『究極のグローバル節税』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

本連載の内容に関しては正確性を期していますが、内容について保証するものではございません。取引等の最終判断に関しては、税理士または税務署に確認するなどして、ご自身の判断でお願いいたします。

究極のグローバル節税

究極のグローバル節税

古橋 隆之 + GTAC

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