「大酒飲みじゃなくても発症、命に関わる病気」と判明
■「非アルコール性脂肪性肝炎」という定義の始まり
現在では脂肪肝が珍しい病気ではなくなりました。人間ドックなどの健康診断で見つかる肝臓病のなかでは脂肪肝が最多となっています。
脂肪肝がとても怖い病気だと認識されるようになったのはつい最近のことです。30年ぐらい前までは、脂肪肝から肝炎や肝硬変に進むことはないというのが医学の常識でした。以前から肥満の患者に脂肪肝が多いことは知られていました。ですが脂肪肝になっても予後は良好で、特に命に関わるようなことはないと考えられていたのです。
脂肪肝の危険性が最初に指摘されたのは、1980年代にアメリカのLudwigという病理学者が報告した事例とされています。「アルコールを飲んでいないのに、まるでアルコール性脂肪性肝炎のような進行性の肝障害を来す人々がいる。そのような人たちに共通する疾患として、肥満、糖尿病、脂質異常症などがある」という報告でした。このとき初めて提唱されたのが非アルコール性脂肪性肝炎「NASH」(英語表記nonalcoholic steatohepatitis)という定義といわれています。
その後も対象者の観察研究は継続され、脂肪肝から肝硬変や肝がんに進行した例が報告されました。そして特に肥満傾向のある糖尿病患者に肝硬変や肝がんで亡くなる人が多いことから、ウイルス性でもなく飲酒を過剰にしない人の脂肪肝の研究が進められてきました。
一方で当時はまだその定義は受け入れられず、しばらく忘れられていたことも事実です。脂肪肝よりもB型肝炎やC型肝炎といったウイルス性肝炎の被害のほうが深刻で、研究者の目がウイルス性肝炎からどうやって人々を救うかということに向けられていたためでした。
その後、世界的に飽食の時代になり肥満や糖尿病などが増え始めました。メタボリック症候群の病態がクローズアップされるようになると、アメリカで再び脂肪肝が注目されるようになりました。
2003年のアメリカ肝臓学会で非アルコール性の脂肪性肝炎が重要なテーマとして取り上げられました。それから遅れること数年、日本でも脂肪肝が注目され健康診断や人間ドックなどで指摘される件数も増えており、国内での脂肪肝患者の数が増えてきていると考えられます(※1)。
※1 愛知県保険医協会「明日の臨床 24号」(2012年12月25日)