「働き手が足りない、後継者が見つからない」
2011年頃から、中小企業の間では人材に関する問題が深刻化しています。中小企業の3割以上が採用で悩んでいます。これは売上や受注の停滞と減少が課題と感じている企業の割合とほぼ同じです(図表2)。
総務省統計局の「人口推計」(2021年11月報)によると、総人口は年々減少しており、2021年11月1日時点での総人口は、前年同月に比べ60万人減少しました。このように国内の人口が減っているなかでは、求職者はより良い給料や待遇を求めて大企業への就職を希望する場合が多く、中小企業が人材を獲得しづらい状況です。さらに、人材採用のために給料を上げたとしても、そのせいで人件費がかさみ、収益が圧迫されるという良くないスパイラルに入っています。
また、後継者不足の問題もあります。全国企業『後継者不在率』動向調査(2021年)によると、現在、中小企業全体の6割以上が後継者不在であるといわれています。企業を引き継ぐ候補者が見つからないため、経営者の高齢化に伴い廃業するケースが少なくありません。廃業は、取引先企業の仕事や地域の働き口の減少につながり、地域経済にとってマイナスになります。
中小企業庁の「2014年版 中小企業白書」によると、廃業した中小企業の資産状況を見ると、廃業時に債務超過だった企業は23%でした。経営状況については約44%が黒字で、2期以上連続で赤字の企業は約36%です(図表3)。つまり、廃業した企業のなかには、資産を保有していた企業や黒字だった企業も多いということです。
また、現役経営者の事業継続に対する考えについては、中規模の企業で約64%、小規模の企業で約43%の経営者が誰かに企業を引き継いでもらいたいと思っていることが分かりました。しかし実態としては約23%の企業が、後継者が見つからなかったという理由で廃業しているのです(図表4)。その背景には、後継者を見つけるのが難しく、見つかったとしても次期経営者としての育成など事業承継を準備するために3年以上かかるという実情があります。
2019年時点の中小企業の開業率と廃業率を見てみると、開業率は4.2%で廃業率は3.4%です(図表5)。このことから、コロナ禍の影響を除いても中小企業が長く存続していくことは難しいのが分かります。
また、中小企業の総数も減っています。2006年からの10年間を見ると、企業数は約421万者から359万者となり、15%減少しました(図表6)。この約360万者のうち、約3分の2の経営者が引退する年齢に差しかかっています。さらに、そのうちの約半数にあたる127万者が後継者不足なのです。
井上 善海
法政大学 教授
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