(画像はイメージです/PIXTA)

母親亡きあと、実家で父親と20年の同居生活を送った長男家族。父が亡くなった際、妹は「都心部の便利な実家に同居していたのだから、相当な金額分の家賃分を得しているはず。相続財産から引くべき」と言い張り、譲りません。妹の主張は正しいのでしょうか。長年にわたり相続案件を幅広く扱ってきた、高島総合法律事務所の代表弁護士、高島秀行氏が実例をもとに解説します。

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特定の相続人のみ生前贈与を受ける「特別受益」の問題

相続でよく問題となることのひとつとして、亡くなった方(被相続人)から特定の相続人のみ生前贈与を受けていたという「特別受益」という問題があります。

 

特定の相続人に対し、特別受益がある場合は、それを遺産に加算して相続分を計算し、特別受益を受けた相続人は、特別受益分は既に遺産を受領したとして計算をすることとなります。

 

例えば、遺産が1億円あり、相続人は子供A、Bでだとします。被相続人からAに対し、生前に3000万円の生前贈与がなされていたとすると、遺産は1億3000万円となり、ABの相続分は、各自6500万円ずつということとなります。

 

そして、Aは既に3000万円受け取っているので、遺産からは3500万円を受け取り、Bは遺産から6500万円を受け取ることとなります。

 

特別受益がある場合は、Aはその分相続分は減らされ、Bはその分相続分が増えますので、特別受益があるかどうかは争いになるのです。

同居の場合、家賃相当額が特別受益とは認められない

本件では、これまた相続でよく問題となる家賃を払わずに同居していたケースです。

 

同居していた相続人は、家賃もかからず、その分貯金や生活費に回すことができ、よりレベルの高い生活が可能となります。特に本件のように実家が世田谷区の駅近の物件であればそこに住むこと自体、利便性やステイタスがあり、通常であれば相当高い賃料を支払うか、住宅ローンを支払わなければ手に入りません。

 

そこで、本件の花子さんが自分は自分たち夫婦で支払える範囲の家賃で、それなりの地域に住んできたのに、太郎さんは、ただで、利便性の高い高級住宅地に住んできたことが許せないという気持ちはわかります。

 

しかし残念ながら、同居の場合は、家賃相当額が特別受益としては認められていません。
 同居の場合は、同居により、被相続人の財産が減って、相続人の財産が増えているわけではないから、と言われています。

 

したがって、残念ながら、花子さんの20年分の家賃相当額を特別受益として考慮して遺産分割すべきという主張は認められないこととなります。

 

よって、20年分の家賃相当額を特別受益に当たるとする選択肢①は誤りで、特別受益に当たらないとする選択肢②が正解となります。

 

ただし、同じ同居でも、戸建てでなく、同じマンションの別な部屋に住んでいた場合や1階と2階それぞれに玄関キッチントイレ等があるいわゆる二世帯住宅の場合などは、事情が異なります。

 

これらの場合は、そこに相続人が住まなければ第三者に貸すことが可能で、被相続人は第三者に貸せば賃料を得られたはずなのに、無償で貸していることから賃料を得られていないということとなり、被相続人の財産が減って、相続人の財産が増えているということが認められることから、特別受益となる可能性があるのです。

 

したがって、本件のケースは、普通の戸建てでの同居だったので特別受益は認められませんでしたが、みなさんのケースでは、マンションの別な部屋を借りていなかったか、完全に独立した二世帯住宅ではなかったかなどの事情を踏まえて判断する必要があります。

 

※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

 

 

高島 秀行
高島総合法律事務所
代表弁護士

 

 

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