(写真はイメージです/PIXTA)

多くの専門家が楽観視していたなか、突然のロシアによるウクライナの侵攻が現実のものになりました。本記事ではニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり氏がロシアによるウクライナ侵攻が予測できなかった理由を解説します。※本記事は、ニッセイ基礎研究所のレポートを転載したものです。

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      ロシアも読み違えをしていた可能性がある

      プーチン大統領も、今になって国内外の反応について読み違えていたことに気付き始めているかもしれない。

       

      まず、軍事力について読み違えがあったのではないか。軍事力で圧倒するロシアは短期間でウクライナを制圧できると考えていたと思われるが、ウクライナ軍の激しい抵抗により、ロシア軍の侵攻は、予想よりも停滞し*14、それにより攻撃も激しさを増しているとも言う。

       

      ロシア国内の反応も、読み違えた可能性がある。プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を「脅かしと大量虐殺の対象となってきた人々を守る」、「ウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指す」特別軍事活動として正当化した。

       

      国営メディアは、民間人の犠牲を、「ウクライナが人間の盾として使っているから」と説明し、ロシアの攻撃は軍事施設等に的を絞ったものであると強調する。こうした言説によって、クリミア制圧時はプーチン大統領の支持率は60%台から90%近くまで一気に上昇したように(図表4)、今回も支持の獲得につながるのだろうか。2月時点の世論調査では、プーチン大統領の支持率は上向きかけている。

       

      ウクライナ情勢の緊張緩和のために首脳間外交が活発化するなど、国際舞台での存在感を示すことができたからかもしれない。しかし、大規模軍事侵攻で、潮目は変わった。西側は、クリミア併合時も制裁に動いたが、今回の制裁は、国際決済網の国際銀行間通信協会(SWIFT)からの排除に加えて、ロシア中銀との一部取引停止が含まれるなど、予想以上に厳しいものとなり*15、市民生活を直撃している。

       

      通貨の信認の弱さはロシアのアキレス腱だ。ロシアではインフレ率が直近1月で前年同月比8.7%と中銀目標の4%の倍以上の水準にある。ロシア中銀はすでに昨年3月から今年2月の政策決定会合までに、合計8回累計525bpという急ピッチの利上げでインフレを抑制しようとしてきた。

       

      しかし、制裁措置で、外貨準備による為替市場への介入という選択肢を封じられたことで、2月28日には政策金利を9.5%から20%まで大幅に引き上げざるを得なくなった。おそらく、この先、ロシアではインフレや物資不足、外貨流動性不足による企業破綻などの問題は深刻化するだろう。クリミア制圧時のような世論の支持を集めるとは思えない。

       

      西側主導の国際秩序に不満を持つ「同志国」の動きについても読み違えがあったかもしれない。西側の制裁の痛みを緩和するためには、制裁に加わらない国々によるロシアへの支持が重要になる。

       

      中でも経済力でEUを凌駕しつつある中国が及ぼす影響は大きい。プーチン大統領は、米英などが外交ボイコットした北京五輪の開会式を訪れ、2月4日に中ロの両首脳は共同声明に署名している。プーチン大統領は、中国との関係強化で対西側での対抗軸を強化したつもりだったかもしれない。

       

      しかし、中国の指導部にとっては、ウクライナへの大規模な侵攻は予想外の動きであったとされる*16。中国の報道官や国連大使の発言を聞く限り、中国はNATOの東方拡大というロシアの不満の原点には理解を示し、軍事侵攻も非難せず、西側の制裁には批判的だが、ウクライナの現状を強く憂慮し、ウクライナとロシアの双方に対話による解決を促す中立的な姿勢を取ろうとしてきた。中国は、王毅外相とウクライナのクレーバ外相との電話会談を受けて「停戦協議で役割を果たす用意がある」との声明も出しており*17、ロシアの支持者としてよりも、中立的な仲介者としての振る舞おうとしている。

       

      14: ‘Russia struggles to take Kyiv and Kharkiv but pushes across Black Sea coast’ Financial Times, February 28, 2022など。また、米国防総省高官はロシア軍の戦闘意欲や能力の低さも指摘している(「米高官「ロシア軍の一部は戦わず降伏」 侵攻停滞の要因」日経電子版2022年3月2日)

      15:対ロシア制裁については、高山武士「世界各国の市場動向・金融政策(2022年2月)-露のウクライナ侵攻と経済・金融制裁の衝撃」(経済・金融フラッシュ 2022-03-01)をご参照下さい。ロシア中銀への制裁については「ロシアの外貨準備、ドルや円凍結 為替介入困難に」(日経電子版2022年3月1日)もご参照下さい。

      16:秋田浩之「ロシア暴走、中国の誤算 「全面侵攻ない」と油断」(日経電子版2022年2月28日)

      17:‘China ready to ‘play a role’ in Ukraine ceasefire’ Financial Times

      次ページ大規模軍事侵攻までは「弱腰」で足並みに乱れが見られたEU

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        ※本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
        ※本記事は、ニッセイ基礎研究所が2022年3月2日に公開したレポートを転載したものです。

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