不倫をしたら、自分から離婚請求するのは難しい?
海外出張から帰ってきた正明さんの衣服から“店の女性の名刺”が出てきても、「こちらは念書まで持たれてしまっているのだし…」と何も言えませんでした。正明さんから携帯電話を勝手に見られていることも知っていましたが、黙っていました。当時は子育てだけを楽しみに生きていたそうです。
不倫が発覚した前後からモラハラ気質に拍車がかかった正明さんを恐れていたこと、家を追い出されて子どもたちと離れ離れになりたくないことも、自分を押し殺し続けた理由として挙げていました。
しかしついに離婚したいという思いは限界に達し、「ネットで調べたら、『一回不倫をしてしまうと離婚請求できない』と出てきて…。どうにかなりませんか?」と、私の事務所へご相談に見えたのです。
“一定の要件”を満たしていなくても…
このままだと、ずっと離婚ができないのではないかと涙を流していた由美さん。正明さんはモラハラ気質ですが、由美さんへの愛はあるので、ますます離婚を受け入れてもらえないように思えます。
不貞行為をした側からの離婚請求は「有責配偶者からの離婚請求」といって、“一定の要件”を満たさないと難しいものです。そして“一定の要件”の中には、『婚姻期間に比較して別居期間が相当程度長期化していること』という要件が存在します。
本件では、二人は長く同居生活を続けていますし、そもそも由美さんには職がなく別居するという選択肢は現実的ではありません。
よって、婚姻関係を破綻させるほど「気持ちの面で離れてしまっていること」をしっかりと説明する必要がありました。
そこで、「調停をしながら協議も併用していく方法」を執り、離婚を成立させる方向で動くことになりました。由美さんは協議離婚を希望したのですが、第三者がいるところで話し合いをするほうがスムーズになります。
ですがいざ離婚調停が始まると、調停委員から「あなたの不倫が原因ではないか」などと言われ、由美さんはつらい思いをすることになりました。
勇気を出して離婚調停を申し立てたことについて、“あなたの不倫”が原因と言われても、的を射ているとは言えません。法律的にも、不貞行為に対する慰謝料は既に時効消滅しています。
私は弁護士として正しい法律論を伝え、婚姻関係が破綻していること(「一切の会話がないこと」「普段のモラハラ行為」を証拠にしました)を主張しました。結局、調停委員も納得し、離婚は認められることとなりました。