(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『昨今の企業不祥事を振り返って』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

本ニューズレターは、2022年1月31日までに入手した情報に基づいて執筆しております。

 

昨今の企業不祥事を振り返りつつ、今年を展望して、以下のような雑感を抱いております。

1. コロナと横領・詐欺

まず、企業不祥事では、横領や詐欺が目につきました。被害額が巨額に上って大きく報道された事件もあれば、被害額が数百万円といった事案まで、様々です。こうした横領や詐欺は、コロナ以前からの犯行がコロナ禍で露見するものと、コロナ禍で新規に犯行が始まるものとがあります。

 

前者(コロナ禍での露見型)では、リモートワークのため常時出社でなくなり、本来の担当者である被疑者とは別の社員が一時的に仕事を肩代わりした結果、被疑者の長年の不正に気付いたとされる事案もあれば、コロナ禍で「どうでもいいや」と糸が切れてしまったのか、被疑者が、これまで不正の隠蔽のために長年にわたり続けてきた帳簿の改ざん等を、コロナ禍で行わなくなってしまって露見したとされる事案もありました。

 

そのほか、高配当投資を謳った詐欺で、詐取金等を既存の被害者への支払いに充てていたところ、この自転車操業が破綻して露見したとされる事案もありました。

 

後者(コロナ禍での新規発生型)では、リモートワークや交代制出勤のため、上位者や同僚による決裁やダブルチェックなどの牽制を緩めたために不正が発生したとされる事案や、金融機関から複数役職員に送付される送金確認のメールアドレスを勝手に変更したとされる事案などがありました。

 

確かに、コロナ禍で、急場のしのぎとして、特例的に、ダブルチェックを緩めたり、一部の事前決裁を事後承認に切り替えるなどの例は少なくないようです。コロナが収束するかどうかは分かりませんが、流行が始まってから3年目に入りましたので、そろそろ、コロナ禍の非常態勢から平常の業務態勢に戻る時期であり、一定のリモートワークを前提にするにしても、牽制を緩める特例的措置は、元に戻す必要があると思います。

 

また、牽制を緩めた業務フローについては、緩めた分、内部監査等の事後チェックを特に重点的に行う必要があります。

2. リモートでの不正調査や監査

コロナ禍で3年目に入りましたが、私ども弁護士も、リモートでの不正調査を行うことが比較的通常のことになっており、企業でも内部監査や監査役監査で、リモート監査が定着しているようです。

 

リモートでのヒアリング等には一長一短があり、また、リモートでは、原本確認や、実査・往査に相応する監査を十分に行うことができないという問題があります。

 

他方、リモートでのヒアリング等は、関係者が地方か外国に居住している場合でも設定が容易であり、往査しない分、監査対象先を増やすことができるといった利点もあります。コロナが収束するかどうかに関わりなく、今後は、リアルとリモートを併用する不正調査・監査が定着するのだろうと思います。

 

その観点からは、将来的には、例えば、ドローンを飛ばしたり、自走機能のあるロボットにカメラを装着して、工場内や倉庫内を観察するような手法や、AIがウェブカメラの画像で書類の真正性を判断する手法なども工夫されていくのだろうと期待しています。

 

コンサルティング会社等では、従来型のデジタル・フォレンジックにおけるデータ処理技術や機械学習の活用等に加え、日頃の社内外のメールやチャット等の常時モニタリングで自然言語処理技術の活用を模索したり、プロファイリングの高度化などに努めているとのことであり、リモートでの不正調査・監査は、こうした技術との親和性が一層強いと考えられます。

 

やや角度は違いますが、最高検察庁も「先端犯罪検察ユニット(JPEC)」を作って、サイバー犯罪やフォレンジック手法等につき先端の知見を内外から集約して検察組織内で活用しようとしているとのことです。

 

私ども弁護士も、こうした技術的な事柄を外部のコンサルティング会社等に任せきりにしないで、勉強しないといけないと思います。

3. 経済安全保障と、経済犯罪における不起訴処分や無罪

最近、ハイテク技術の保護・開発や社会インフラの安全確保等の観点から、経済安全保障が特に注目されています。私も、2017年の年賀状に「『選択と集中』による経済や産業のいわばモノカルチャー化が国策として適切なのか」等と書いたことがありますが、有事の場合の備えとして、食料やエネルギーの安定供給とともに、生活必需品や、半導体を含む重要工業製品等の自国での供給能力を維持することも必要ではないかと、常日頃から思うところです。

 

ところで、経済安全保障といえば、最近、いわゆる経済犯罪で警察が摘発・逮捕したものの、検察が不起訴にしたり、起訴を取り下げる事件が目につくような気がします。

 

報道等によれば、外為法違反(無許可輸出)で機械製造会社の社長らが逮捕勾留されて起訴されたものの、検察官が公判直前に起訴を取り下げた事案や、軍事技術関連の文献の不正入手につき電子計算機使用詐欺罪で会社の元経営者が逮捕勾留されたものの、不起訴とされた事案がありました。

 

そのほかにも、新型コロナの抗原検査キットの広告・販売について、医薬品医療機器法違反で逮捕された業者が処分保留で釈放された事案や、学校法人を巡る業務上横領事件での無罪判決などがありましたし、いわゆる入札妨害罪や文書偽造罪等で捜査機関が最初から犯罪になりようがない事案で無駄に捜査をしていると感じる事案もありました。なお、経済犯罪の範疇に入らないのかもしれませんが、コインハイブ事件の無罪判決もありました※1

 

※1 コインハイブ事件については、本ニューズレター2021年3月31日号の拙稿「検察官および検察審査会の訴追裁量(起訴する判断)をチェックする法理の必要性」も御参照ください。

 

確かに、これらの経済犯罪と総称されることもある犯罪類型の中には、構成要件に一般的抽象的な文言が含まれていたり、学者の研究があまり進んでおらず、実務上も頻繁には使われていないといった罰則もあります。また、いわゆる一般刑法犯に比べれば、捜査機関も、その捜査や適用に不慣れという面もあると思います。

 

しかし、暴力団関係者や過激派などでもないわけでして、一般の社会人にとっては、逮捕勾留されて、新聞に個人名が出るというのは、大変な事態です。最後に不起訴や無罪になればそれでよいという問題ではありません。

 

個々の証拠関係や捜査目的はいろいろあるのかもしれませんが、経済安全保障が重要な国策の一つとされているだけに、そうした国策に資するように、警察をはじめとする捜査機関は、これらの経済犯罪に対して、適正かつ十分な捜査能力を涵養し、検挙すべき事件は検挙し、検挙すべきでない事件は誤って検挙しないよう、留意すべきであると思います。

4. 今後の企業不祥事

(1)コロナ流行が始まって以降、コンプライアンスや危機管理の多くの専門家が、企業の収益悪化等から、粉飾決算、不公正ファイナンス、カルテルなどの企業不祥事の新規発生が増えるだろうと予測してきました。コロナ禍で経営悪化した企業に対する政策的な支援との関係もありますが、今年くらいから、そうした予測ないし見通しが実際に正しかったのかどうか、判明するのではないかと思っています。

 

(2)また、企業不祥事の中でも、カルテル、品質不正は、これだけ報道等で大きく取り上げられる事件が繰り返し発生し、法制度上や実務上も、発生防止や早期発見のための様々な取組がなされてきても、なかなか収束しません。昔からの不正が今でも根強く続いているという事案だけでなく、カルテルや品質等に関するコンプライアンスが強く言われている足下の最近数年間で、新たに発生したという事案すらもあります。

 

カルテルや品質不正が収束しない要因は、もちろん、事案ごとに様々だと思いますが、強いて共通する要因を考えると、

 

①贈賄等と比較して、通常の活動から違法行為に踏み出す際の壁が低いこと(例えば、カルテルであれば、同業他社と日頃から接点がある中で、個別事案での価格や客先、全般的な営業方針等の会話についつい入り込んでしまいやすいこと、品質不正であれば、契約仕様等をよく確認しないで不要な検査と即断してしまうこと等)、

②密接な人間関係に根ざしていること(例えば、カルテルであれば同業他社の担当者との長い付き合い、品質不正であれば同じ工場の中の先輩後輩や同僚等)

 

といった点でしょうか。

 

カルテルや品質不正は、例えば「うちの会社でも昔あって、摘発されたり、問題になった。そのときに十分な再発防止策を講じたし、みんな非常に痛い思いをしたから、うちの会社は今は大丈夫だ」といった感覚は、絶対に通用しません。社内規程見直し、内部監査、研修等といった努力を、今後も不断に継続していく必要性が高いと思います。

 

(3)昨年頃からでしょうか、日本語の壁を越えて、ランサムウェア攻撃の被害を受ける企業が日本でも珍しくなくなっていますが、身代金の支払いの適否の判断は、非常に難しいと思います。

 

以前は、米国等では、自治体、企業、病院等が、システムの復旧や再構築を実現するまでの広い意味でのコストを考え、費用対効果の観点から、身代金を支払うことがあまり珍しくなかったようですが、最近では、米国の政府関係者等からも、身代金支払いがランサムウェア攻撃を助長しているとして、払うべきでないとの声が高まっており、また、米国の制裁対象国の関係者に身代金を支払うと、米国からOFAC規制違反で制裁を受ける可能性も取り沙汰されています。

 

日本でも、例えば、経済産業省の2020年12月18日付け「最近のサイバー攻撃の状況を踏まえた経営者への注意喚起」では、「こうした金銭の支払いは犯罪組織に対して支援を行っていることと同義であり、また、金銭を支払うことでデータ公開が止められたり、暗号化されたデータが復号されたりすることが保証されるわけではない。

 

さらに、国によっては、こうした金銭の支払い行為がテロ等の犯罪組織への資金提供であるとみなされ、金銭の支払いを行った企業に対して制裁が課される可能性もある。こうしたランサムウェア攻撃を助長しないようにするためにも、金銭の支払いは厳に慎むべきものである。」とされています。

 

OFAC規制違反等を別にすれば、身代金を支払うかどうかは経営判断の問題ですが、蛇の目ミシン事件(最判平成18年4月10日民集60巻4号1273頁)などもあり、単なる費用対効果の観点からの合理性ではなく、顧客や役職員等の生命身体の保護に必要な場合など、身代金支払いの適否については、慎重に対応を検討していく必要があると思われます。

 

 

木目田 裕
西村あさひ法律事務所 弁護士

 

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   木目田裕

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