「働かないおじさん」問題を放置してはいけないワケ
「働かないおじさん」に関する記事やネットの論調を見ていると、「高い給料をもらっていながら、成果が出せない(出そうとしない)本人が悪い」「今まで放置してきて、急に手のひらを返した会社が悪い」「その状況に対して何も言わない(言えない)上司や人事が悪い」など、社内での犯人捜しや、責任の所在の追求のみにフォーカスした議論が多い気がしています。
しかし、「働かないおじさん」問題は、色々な要因が複合的に重なって生じた問題であり、少子高齢化と生産年齢人口減少が続く日本全体が向き合って解決すべき社会問題ではないでしょうか。
ここからは、それぞれの立場によって、いったい何が問題になるのかを見ていきましょう。
■「働かないおじさん」問題を放置すると…企業に生じる問題点
特に大手企業では、バブル世代と呼ばれる大量採用世代が50代を迎え、社内のボリュームゾーンになっています。「数年後には、社内の半数が50歳以上になる」という会社の相談もいただくことがあります。そうしたボリュームゾーンの社員が「働かないおじさん」化してしまうと、大きく2つの問題が生じます。
1つは「ポストの確保」。
現状でも、60歳以上の社員へのポスト確保に苦労している企業が少なくありません。仕事自体がAI化・自動化・複雑化が進む中で、最新の技術や環境に適応できる人材集団でないと、提供できる職務が無いだけでなく、組織自体の存続が難しくなる危険性が高くなっています。
もう1つは「組織の新陳代謝」。
環境変化が激しい現在、ビジネスも求められる人材も働き方も常に変化しています。近年はジョブ型と呼ばれる働き方が注目されていることからも分かるとおり、高度な能力や専門性を持ち成果を出す人材に高い処遇を提供することで組織の競争力を高める動きは、今後も続いていくでしょう。
この動きは裏を返せば、「現在の処遇と能力・成果にギャップが生じている社員に対し、今までの処遇を継続することが難しい」という現実を示唆しています。
この問題は、特に処遇が若手や一般社員よりも高いミドルシニアの管理職層で顕著に発生します。
■「働かないおじさん」化した本人に生じる問題点
実際に企業の現場でコンサルティングや研修を行っているとよく分かるのですが、本人が好き好んで「働かないおじさん」と呼ばれる状態になっているケースはほぼありません。
気付かない間に、または薄々気が付きながら上手く対応できず、周囲や上司の期待とギャップが生じてしまっている場合がほとんどです(実際は、「会社に言われた通り、真面目にコツコツ頑張ってきた」善良な人が、こういう状況になってしまうケースも多いです)。
「働かないおじさん」と呼ばれる状態が続いてしまうと、本人には2つの問題が発生します。
1つは「キャリア」の問題。
今の40〜50代は、生涯を通して働く年数が昔の同世代より長くなっています。『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)が2016年にベストセラーになって以来、人生100年時代を見据えた働き方が注目されています。また、2021年4月には高年齢者雇用安定法が改正され、70歳までの就業機会確保が努力義務化されました。
40代や50代の時点で周囲の期待に応えられない状態となり、それを放置してしまうと、長く続く職業人生を望ましい形にコントロールすることは困難になります。
もう1つは「ライフ」の問題。
会社がVUCAと呼ばれる複雑で厳しい環境にさらされている現在、会社の期待に応えられない社員に従来通りの処遇や雇用を約束し続けることが難しくなっています。
会社の期待と本人の成果にギャップが生じている状態が続くと、働きに応じた厳しい処遇を受ける可能性は以前より高くなっています。
日本の場合、労働基準法や労働契約法などで労働者の権利が守られているため、よほどのことがない限り一方的に解雇されることはありません。しかし、場合によっては冒頭に記載したような早期退職・希望退職への応募を勧奨されることはあり得ます。
また、会社の経営自体が維持できなくなり倒産するケースや、やむなく整理解雇が行われるケースも急増しています。厚生労働省の調査では、2020年2月から2021年4月までに、新型コロナウイルス感染症の影響で解雇・雇い止めが行われた人数は10万人を超えています。
処遇の低下、雇用契約の終了など、「予期せぬ変化」や「望まない変化」が遠い対岸の火事ではなくなりつつあるという現実を、本人もしっかり理解しておく必要があります。これ自体は全年齢について言えることですが、一般に生活コストが高いミドルシニアの方が、問題はより大きくなります。