「俺はエリートだぞ」事務所に訪れた裕司さんは…
そんな経緯で裕司さんはわたしの法律事務所へ相談に訪れました。
やって来て早々に、裕司さんは声を荒げ、顔を真っ赤にしながら理沙さんの悪口を言い始めました。
「妻には学がない」「俺は国立大卒のエリートだぞ」「銀行員としても将来を嘱望されているんだ」「ほかの女性だって作ろうと思えばいつだって作れる」「こんなことに付き合っていられるか、子供とお金、今までに費やした時間を全部返せ」……といった調子で言いたい放題です。
慰謝料を請求されているわけですから、裕司さんにもなにかしら問題があったのだろうと思われましたが、この時点で彼から伝えられたことは上記のことだけでした。
離婚における慰謝料は不倫や暴力、モラハラなどといった、有責行為を行った者に対して請求するものです。離婚したい理由が「性格の不一致」のようなどちらかに非が認められるわけではないものなら、請求することはできないのです。
そして婚姻費用とは、通常の家族が生活するために必要な費用のことです。夫婦は法律上互いに生活を助け合う義務があるため、別居中であっても生活費を分担しなければなりません。
妻から要求されている婚姻費用と慰謝料について説明をしても、「不当だ」の一点張りです。「京都から両親を呼び寄せて家族会議をするから、弁護士も参加しろ」などと言うわりに、こんな「ありえないこと」のために弁護士へ費用を支払うのは惜しい、と考えてもいるようでした。
わたしの元へは定期的に相談にやって来ましたが、なにを説明しても「あいつには新しい男ができたんだ」「お金がほしいんだろう」と言い立てる調子は変わりません。
そうしているうちに、家庭裁判所で婚姻費用と慰謝料の請求が行われることになりました。申立書を持参した裕司さんが「結局先生もお金が欲しいだけですよね」と言っていたことを覚えています。とにかくお金に敏感になっていました。
第1審はご自身で家庭裁判所に出向き、涙ながらに「こんな請求はおかしい」「自分はこれまでにどれだけの金額を費やし、生活させていたか理解しているのか」と裁判官に語ったそうです。裁判官はそれに対して特にコメントすることなく、月額20万円の支払いを命じました。
その結果、高等裁判所にいくことになったので、わたしが弁護士としてつくことになりました。