(※画像はイメージです/PIXTA)

かつての日本は「省エネルギー先進国」だと言われていました。しかし、近年は製造業を中心に、省エネルギー・エネルギー効率化は他国に後れを取っています。本記事では、ヴェリア・ラボラトリーズ代表取締役社長の筒見憲三氏が、日本の産業界は「温暖化対策」に消極的だった理由や、今後企業に求められるものは何か、解説していきます。

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    「気候変動対策」と「経済成長」は両立できないのか?

    ESCO事業(省エネルギー・エネルギー効率化をビジネスとして推進すること。それもファイナンスを絡めて、初期投資ゼロにより省エネルギー・エネルギー効率化で生じたコストダウン分を顧客と事業者で分け合う)と最初に出合った時に、エネルギーのサービス化という点に加えて面白いと感じたことは、ESCO事業の典型的なビジネススキームである「シェアード・セイビングス(Shared Savings)契約」の考え方でした。

     

    省エネルギー・エネルギー効率化方策をうまく導入すれば、必ずエネルギーコストの削減につながり、その削減分を顧客とESCO事業者と分け合うことで、初期投資を回収していこうというものです(図表1参照)。

     

    図表1:ESCOシェアード・セイビングス契約スキーム


    つまり、そのスキームの根底には、そもそも今まで使っていた経費の削減分を活用することで、顧客も事業者も、そして地球環境も皆ハッピーという「三方よし」の発想があることです。まさにわが国の近江商人の経営哲学そのものです。

     

    2015年のパリ協定以降、世界的に低炭素から脱炭素への大きな転換が始まり、奇しくも今回のコロナ禍が幸か不幸かこの転換自体を早めることになりました。

     

    中途半端な低炭素ではなく、ゼロを目指す脱炭素です。そこでは経済成長を追求しながら脱炭素も早急に進めなくてはならない、転換のスピードを早めざるを得ないのです。

    各国が「カーボンニュートラル」宣言するなか日本は…

    欧州は早速にもグリーンリカバリー戦略を打ち出しております。また、まだまだ経済成長優先段階かと思われていた中国ですら2060年でのカーボンニュートラル宣言をしました。

     

    米国もバイデン政権に変わって、2050年カーボンニュートラル宣言と同時に気候変動対策の国際協調優先へと対応方針と戦略を転換しました。

     

    わが国も2020年10月に表明された菅首相の「2050年カーボンニュートラル宣言」によって、やっと重い腰が動いたというところです。いずれにしても今後は、コロナ禍からの経済復興とさらなる成長につながるような気候変動対策へ集中的に投資していくという発想が必要になります。

     

    したがって、企業においても、企業としての持続可能な成長と事業自体の脱炭素化を両立していく道を選択せざるを得ないでしょう。

     

    まずは、経営トップの脱炭素化を主軸とした経営スタイルに転換するという覚悟と将来の大きなビジョンを掲げて、それぞれに抱える現場で働く人々を腹落ちさせ、全社一丸による推進体制を構築していくことが肝要となります。

    なぜ日本はデカップリングに手間取ることになったのか

    京都大学大学院経済学研究科諸富徹教授の某セミナーでのお話において、図表2を初めて見せていただき、大変大きなショックを受けました。

     

    図表2:GDP成長率とGHG総量変化率

     

    この図は2018年頃に環境省主催の「カーボンプライシングのあり方に関する検討会」の参考資料として提示されたもののようです。

     

    私のショックは、経済成長をしながらもしっかりと温室効果ガスの総量を削減してきた欧州の先進国だけではなく、米国にまで日本が後塵を拝していることです。

     

    一方、この図の年限である2002年から2015年というのは、筆者自身が産業界において省エネルギー・エネルギー効率化をなんとか独り立ちするESCOサービスビジネスとして展開することに苦闘していた時期とも重なり、さまざまな営業現場で得ることができた肌感覚として、この日本の温室効果ガスの削減総量も少なく、同時に経済成長もあまり達成できなかった結果には、不思議と納得することもできました。

    日本産業界「先駆的な温暖化対策に取り組む必要ナシ」

    そこで諸富先生のセミナーでの最も印象に残ったお話は、以下のようなものでした。

     

    先生が委員として出席されていた環境省等の各種委員会での産業界側からの強い主張として、日本産業界・企業が先駆的な温暖化対策に取り組む必要がないとされた3つの理由として、

     

    ①日本はすでに世界最高水準の排出削減技術を持っている。

    ②日本は石油ショック以来、省エネに取り組んで今や「乾いた雑巾」だ。

    ③日本の限界排出費用は世界最高水準、さらなる温暖化対策は成長にマイナスだ。

     

    このような主張をするのは、経団連の主要メンバーである有数の大企業であり、頑なに温暖化対策に消極的であったようです。

     

    ただし、先生のお話では、「図に示されたように、国としての経済成長と温暖化対策のデカップリング(切り離し)は欧米の先進各国で実証済みであり、すでに結果は出ているのではないか」というもので、筆者自身は、そのお話が妙に腹落ちしました。

     

    もちろんこの先生のお話は、マクロ経済レベルの問題であり、必ずしも個別の企業においてデカップリングに戸惑っているということではありませんが、筆者自身はむしろ日々の営業現場での実体験を通じたミクロ経済を肌感覚的にしか分からない者として、この「日本企業がデカップリングに戸惑ってきた」ということは極めて納得できるものでした。

     

    これからわが国が目指すべき方向性は、「温暖化対策への積極的な対応を通じて、経済を強くし成長させる」ことであり、このことは個別企業、特にグローバル展開している大企業においてこそ、このデカップリングを自らの経営の主軸とすべきではないか、との思いを強くいたしました。

     

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    筒見 憲三

    愛知県犬山市出身。 1979年京都大学工学部建築学科卒業、1981年同大学院工学研究科建築学専攻修了後、 大手建設会社に入社。 1991年ボストン大学経営学修士(MBA)取得。 1992年(株)日本総合研究所に転職。 1997年(株)ファーストエスコの創業、代表取締役社長に就任。 2007年(株)ヴェリア・ラボラトリーズを創業。代表取締役社長に就任し現在に至る。

     

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    本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『データドリブン脱炭素経営』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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