(※画像はイメージです/PIXTA)

かつての日本は「省エネルギー先進国」だと言われていました。しかし、近年は製造業を中心に、省エネルギー・エネルギー効率化は他国に後れを取っています。本記事では、ヴェリア・ラボラトリーズ代表取締役社長の筒見憲三氏が、今後脱炭素経営を目指す経営者は何に取り組むべきか、解説していきます。

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    脱炭素化は「再生可能エネルギー」に頼るしかないのか

    図表からも読み取ることができますが、今後、企業が脱炭素化を進める上で、省エネルギー・エネルギー効率化の余地はあまりなく、それ以外の手段として再生可能エネルギーに頼るしかない、あるいは炭素利用・固定化(CCUS:Carbon dioxide Capture andStorage)や水素活用などの新しい技術開発を待たなくてはならないという他力本願的な論調が最近喧しくなっております。

     

    図表:製造業のエネルギー消費原単位の推移

     

    決してその議論そのものが間違っているということではありませんが、安易にこのような結論に至るのは拙速ではないかと筆者は危惧しております。なぜなら、省エネルギー・エネルギー効率化はエネルギー問題を取り扱う時の基本中の基本であり、わが国が今後脱炭素化を進める上での基盤であるべきだからです。

     

    この基本を押さえ具体的な行動につなげていく努力や投資は、どこまで行っても終わりがなく継続しなくてはいけないというのが、筆者の強い主張です。

    省エネルギー・エネルギー効率化に終わりはない

    例えば、人間に喩えると分かりやすいかもしれません。少しメタボで困っている人を想像してください。なんとか体重を絞って体脂肪を落とし、メタボ解消の努力をしている場合、やはり毎日体脂肪も測れる体重計に乗ってチェックすることが重要になります。週末等で少し気を緩めて暴飲暴食すると、翌週には即体重増として結果が出てしまいます。

     

    企業においてもまったく同じではないでしょうか。今まで徹底した省エネルギー・エネルギー効率化をやってきたと言っても、担当者が変わったりして少し気を緩めると増エネルギーになってしまう。毎日とまでは言いませんが、やはり最低でも週次・月次ベースでのエネルギーの消費量や利用状況は必ずチェックしておきたいものです。

     

    つまり、省エネルギー・エネルギー効率化というのは、どこまでやっても終わりというものがないということです。終わりがないと言えるのは、単に体重計に乗り続ける必要性という意味だけではなく、新しい技術が出てくれば、それらを活用することで、さらにエネルギーの削減や効率的利用に資することができるのです。

    省エネルギー化を効率的・効果的に進める上での課題

    省エネルギー・エネルギー効率化を効率的・効果的に進める上で課題となるのは、一見当たり前のことですがエネルギーという代物が目に見えないということです。見えないが故に、それを削減し効率的に利用しようと設定値の変更や投資による機器更新など、何かの方策を実行しても、その効果・結果がはっきりと分からないのです。

     

    結果が分からないことを実行しようとすると、企業であればその実行の許可をどう取っていくかという点が大変悩ましく、ついつい現場の日常業務の忙しさにかまけて何も行動を起こさないとなってしまいます。

     

    まず、「見える化」するべしというのは、省エネルギー・エネルギー効率化を進める上での大前提とすべきところですが、この「見える化」にも一定の投資が必要となり、その投資も費用対効果が明確でなければ、なかなか実施稟議が下りないものです。

     

    今後、企業が脱炭素化を本格的に進めるのであれば、まずはこのエネルギー関連のデータ把握による見える化が前提になりますので、そのための投資は単なる費用対効果を超えたレベルでの意思決定が必要になります。

    脱炭素経営を目指す経営者が取り組むべきは…

    もちろん、見える化に投資することによって、さまざまなムダ・ムラ・ムリと言われる「3M」が分かり、それらを改善すればエネルギーコストの削減にもつながりますので、決して回収できない投資ではありませんが、投資を決定する時点で、どの程度の削減が可能であるかの試算が難しいので、そのあたりで話が頓挫することが多いことになります。

     

    筆者として、今後、脱炭素経営に舵を切ろうとしている経営者は、現場レベルから始め、会社全体、あるいはグループ全体のデジタル化を推進するのであれば、このデジタル化投資の一環として、エネルギーの見える化も組み込むことを強く推奨したい。

     

    効率的な投資決定というのは、常に「一粒で二度、三度美味しい」という発想が大切ですが、今後、企業として避けて通れない業務のデジタル化において、エネルギーデータの取得から見える化についての効果も必ず含めるようにすべきと考えます。

    「エネルギー関連データ」のデジタル化が進まないワケ

    昨今のIoT(あらゆるものがインターネットにつながること)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の議論の中で、エネルギー関連データのデジタル化の話題が抜け落ちていることが散見されますが、筆者としてはIT関連技術者とエネルギー関連技術者間に今まではあまり接点がなかったことが原因ではないかと推察しております。

     

    IT専門家にとってエネルギー分野は、専門外でありよく分からない、一方、エネルギー技術者にとってIT分野は専門的で難しいという技術者間の目に見えない縦割り構造が存在しているようにも感じております。

     

    確かに、両方の技術に明るい技術者は、少なくともわが国にはほとんどいないと言っても過言ではないでしょう。したがって、黙って現場に任せておいたのでは、なかなかエネルギー部門のデジタル化が進まず、より詳細なデータ類を簡易に活用できるような環境を作ることができず、結果として効率的で効果的な省エネルギー・エネルギー効率化、ひいては脱炭素化が進まないということになるのです。

     

    だからこそ、この現場レベルでの見えない溝の存在を感得し、その技術的な融合・統合を促すような的確な指示と意思決定をしていくことが脱炭素経営を標榜する企業経営者には、また近い将来の経営者になろうとしている方々には必須の要件になってくるのです。

     

    いずれにしても、脱炭素社会の実現に向けて、省エネルギー・エネルギー効率化の思想・発想に基づいた技術と具体的な投資と行動は必須であるというのが、筆者の強く主張したいところです。

     

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    筒見 憲三

    愛知県犬山市出身。 1979年京都大学工学部建築学科卒業、1981年同大学院工学研究科建築学専攻修了後、 大手建設会社に入社。 1991年ボストン大学経営学修士(MBA)取得。 1992年(株)日本総合研究所に転職。 1997年(株)ファーストエスコの創業、代表取締役社長に就任。 2007年(株)ヴェリア・ラボラトリーズを創業。代表取締役社長に就任し現在に至る。

     

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    本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『データドリブン脱炭素経営』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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