(※写真はイメージです/PIXTA)

体の弱い妻の両親と同居し、長年サポートしてきた夫婦。感謝した妻の父親は、妻に有利な遺言を残します。一方で、親族と折り合いの悪かった妻の妹は孤立無援状態に。そのまま疎遠になりましたが、年月が経ち、妻が高齢者施設に入所したことを知り、妻の妹が動き始めます。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに、生前対策について解説します。

遺産分割に不満を持つ妹が、妻の入所先に押しかけて…

「義父の3回忌以後、私は義妹とは会っていません。しかし、どこから聞いたのかわかりませんが、妻が施設に入所したらすぐ、義妹が面会を求めてきたそうなのです」

 

妻の妹が主張しているのは、姉には子どもがいないのだから、姉の夫が暮らしている実家は私にも相続権がある、姉が死んだら私がもらう、ということでした。

 

「義妹はたびたび施設を訪れては、妻に、自分に自宅を相続させると遺言書を書くよう、迫ってくるそうです」

 

長谷川さんの妻は、自宅は夫に残すと意思表示しており、高齢となった長谷川さんも、住み慣れたいまの家を離れたくないと思っています。

きょうだいには「遺留分の減殺請求権」がない

筆者は長谷川さんへ、妻に遺言書を残してもらうようアドバイスしました。遺言書としていちばん確実なのは公正証書遺言です。自筆の場合、家庭裁判所による検認が必要となり、時間や手間がかかるからです。

 

「よくわかりました。妻と改めて相談します」

 

次の打ち合わせのとき、長谷川さんには妻の印鑑証明書、固定資産税納付明細、登記簿謄本といった書類を持参してもらいました。筆者はこれらの資料に基づいて遺言書の原案を作成し、公証役場と打合せを行いました。長谷川さんとは、それらの経過についてファックスやメールのやり取りですませました。

 

その後、長谷川さんの妻の施設へ、長谷川さんと筆者、公証人等とともに足を運び、無事に遺言書作成は完了しました。遺言の執行者は長谷川さんとしました。

 

これにより、万一妻が亡くなった際には、全財産が長谷川さんに相続され、不動産の名義変更登記も可能になります。きょうだいには遺留分の減殺請求権がないため、長谷川さんの妻の思いは確実に実現できるのです。

 

筆者は仕事での遺言書の作成にあたり、何度も公証人や証人と高齢者施設へ同行しています。公証人による本人の意思確認を経ることで、はじめて正式な遺言書が完成するため、遺言者の方々は緊張され、厳粛な面持ちで臨まれます。

 

長谷川さんの奥様は、しっかりと背筋を伸ばして座り、はっきりした口調で意思を表示してくれました。また、筆者らが帰る際には、わざわざお見送りに来てくれました。

 

お元気なご様子でよかったと思っていたのですが、その数ヵ月後、筆者のもとに訃報が届きました。

 

「家内には、わかっていたのかもしれません」

 

挨拶のために事務所に運んでくださった長谷川さんの表情は寂しそうでしたが、心配なく住み慣れた家に暮らせることがうれしいと、安堵した様子も見せてくれました。

 

 

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

 

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

 

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。

 

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本記事は、株式会社夢相続のサイト掲載された事例を転載・再編集したものです。

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