裁判所は「共用部に使用貸借関係は成立しない」と判断
この事案で、賃借人側は、
・共用部分については、賃貸借契約で賃借の対象とはなっていないが、共用部分使用の対価として共益費を支払っているので、賃借権が及ぶ。特にフロアー一括借の場合は専有部分と共用部分は密接不可分の関係である。
・賃借権が及ばないとしても、使用借権が及ぶ
という主張をしました。
これに対して、裁判所は、
「本件賃貸借契約は、共用部分とされるトイレ、エレベーター、廊下及び湯沸かしコーナーなどは、賃貸借契約の対象とはなっていない。原告らは、賃貸借契約に付随して、賃貸借契約の対象となる賃貸借室の使用収益に必要な限度で、それらの共用部分も使用することができるが、共用部分について賃貸借関係が成立するものではない。」
「原告らは、共用部分の使用収益の対価として共益費を支払っているというが、共益費は、共用部分、共用施設の維持、管理等に必要な費用を分担して負担するものであるから、使用収益の対価ではない。」
「また、原告らは、共用部分について使用貸借関係が成立するというが、原告らは、飽くまで賃貸借室の使用収益に必要な限度で共用部分を事実上使用できるにすぎず、賃貸借室の使用とは無関係に排他的な支配を認められているものではない。したがって、共用部分について、使用貸借関係が成立するものではない。」
と述べて、共用部分には賃借人の排他的使用権はない、と判断して工事の差止は認めませんでした。
このように、共用部分については、たとえフロアー一括借り上げの場合であっても、契約書に賃借の対象とする約定がない限りは、基本的には「賃借人の排他的使用権はない」と考えるべきこととなります。
もっとも、この裁判例は、最後に付け加えるような形で
と述べています。
この判旨からすると、共用部分の形状等の工事態様やその改築内容が、「賃借人の使用する利益を侵害する程度が高く、受忍限度を超える」と評価される場合は、賃借人により工事の差止等が認められる余地がある、ということになります。
※この記事は、2020年2月9日時点の情報に基づいて書かれています(2022年3月4日再監修済)。
北村 亮典
弁護士
こすぎ法律事務所
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