(※写真はイメージです/PIXTA)

ビルに設置されているエレベーターやトイレ……いわゆる「共用部分」の権利は誰が有しているのでしょうか。とあるビルのワンフロアを一括で借り上げている貸借人が、「共用部分の独占使用」を求めて起こした裁判について、賃貸・不動産問題の知識と実務経験を備えた弁護士の北村亮典氏が解説します。

裁判所は「共用部に使用貸借関係は成立しない」と判断

この事案で、賃借人側は、

 

・共用部分については、賃貸借契約で賃借の対象とはなっていないが、共用部分使用の対価として共益費を支払っているので、賃借権が及ぶ。特にフロアー一括借の場合は専有部分と共用部分は密接不可分の関係である。

 

・賃借権が及ばないとしても、使用借権が及ぶ

 

という主張をしました。

 

これに対して、裁判所は、

 

「本件賃貸借契約は、共用部分とされるトイレ、エレベーター、廊下及び湯沸かしコーナーなどは、賃貸借契約の対象とはなっていない。原告らは、賃貸借契約に付随して、賃貸借契約の対象となる賃貸借室の使用収益に必要な限度で、それらの共用部分も使用することができるが、共用部分について賃貸借関係が成立するものではない。」

 

「原告らは、共用部分の使用収益の対価として共益費を支払っているというが、共益費は、共用部分、共用施設の維持、管理等に必要な費用を分担して負担するものであるから、使用収益の対価ではない。」

 

「また、原告らは、共用部分について使用貸借関係が成立するというが、原告らは、飽くまで賃貸借室の使用収益に必要な限度で共用部分を事実上使用できるにすぎず、賃貸借室の使用とは無関係に排他的な支配を認められているものではない。したがって、共用部分について、使用貸借関係が成立するものではない。」

 

と述べて、共用部分には賃借人の排他的使用権はない、と判断して工事の差止は認めませんでした。

 

このように、共用部分については、たとえフロアー一括借り上げの場合であっても、契約書に賃借の対象とする約定がない限りは、基本的には「賃借人の排他的使用権はない」と考えるべきこととなります。

 

もっとも、この裁判例は、最後に付け加えるような形で

 

「被告が計画している増築工事が実施されると、トイレの改修工事に伴って各階について4週間程度使用ができなくなるものの、工事階が連層階とならないように調整し、他の階のトイレを使用することとなるが、被告は、共益費を減額する提案をしているのであるから、上記工事の実施が原告らの共用部分を事実上使用する利益を侵害する程度は低く、受忍限度を超えるものとはいえない。」

 

と述べています。

 

この判旨からすると、共用部分の形状等の工事態様やその改築内容が、「賃借人の使用する利益を侵害する程度が高く、受忍限度を超える」と評価される場合は、賃借人により工事の差止等が認められる余地がある、ということになります。

 

※この記事は、2020年2月9日時点の情報に基づいて書かれています(2022年3月4日再監修済)。

 

 

北村 亮典

弁護士

こすぎ法律事務所

 

 

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※本記事は、北村亮典氏監修のHP「賃貸・不動産法律問題サポート弁護士相談室」掲載の記事・コラムを転載し、再作成したものです。

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