前回は、親子間での事業承継を成功させるためのポイントについて説明しました。今回は、親子承継の出発点となる、後を継がせるという意志の上手な伝え方を見ていきます。

事業承継の土台づくりは親子の対話から

事業を継がせたいという意志を実際に伝えるためにも、それに見合った段取りは必要になります。少なくとも、後継者が本音を打ち明けやすいよう、ざっくばらんに話ができる環境を用意する程度のことは必須要件です。親子だからこそ親密に話せますが、本音を改めて話すのは勇気がいるものです。経営者の側から働きかけ、場所やタイミングなどをお膳立てすることを考えましょう。

 

言わばこれは、これから事業承継について親子で様々な対話を行っていくための最初の土台づくりにもあたります。

 

子どもが「自動的に」後継者になる時代ではありませんので、たとえば自分が先代から事業を受け継いだ経験は役に立ちません。後継者が自ら教えを受けるために現経営者に食らいついていくスタイルや、先代は多くを語らずとも後継者が必死にその姿を見て学んでいくというスタイルは、もはや期待するだけムダという世の中になっているのだと考えるべきです。

承継期間は後継者に与える最大の教育機会

また、自ら現在の事業を興した経営者であれば、そこには誰にも真似のできないような強烈な熱意があったかもしれません。けれども、その熱意と同じだけのものを後継者に求めるのは酷なことです。

 

事業承継は、自らのコピーやクローンをつくり出すことではありません。事業を譲るのは自分とはまったく違った人間なのですから、当然、その後継者に寄り添い、経営者が先導したりしながら対話を重ねつつ進めていく必要があるのです。

 

そんな手ぬるいやり方で、本当に後継者は今後やっていけるのかと不安に思ってしまうというのが、現経営者にとっては本音でしょう。しかし、親子承継は単なる相続の手続きではありません。自らの心血を注いで経営してきた事業を子どもに譲るために費やすこの期間は、実は最大の教育の機会、本当の意味で子どもを経営者にしていくための時間だと捉えれば、多少の物足りなさを感じてもその機会に前向きに臨んでいけることと思います。

 

ただし教育とはいっても、後継者も年齢的には立派な大人です。世間知らずの10代の若者ではありません。さらに、もし自社ではなく外部の企業などで働いている場合などでは、むしろ後継者の方が長けている分野もあり、新たな経験を積んでいることもあるでしょう。その点をきちんと尊重し、大人同士の接し方に努めるべきなのです。それでこそ、事業承継において最も大事な後継者との本当の意味での「対話」が実現していくのです。

本連載は、2016年6月24日刊行の書籍『たった1年で会社をわが子に引き継ぐ方法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

たった1年で会社を わが子に引き継ぐ方法

浅野 佳史

幻冬舎メディアコンサルティング

近年、日本の多くの中小企業が承継のタイミングを迎えています。承継にあたっては、親から子へと会社を引き継ぐパターンが多いのですが、親子間だからこそ起こるトラブルがあることを忘れてはいけません。 中小企業白書による…

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