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分子栄養学の成り立ち
■医学・栄養学の常識を変えた、「分子生物学」の発見
私たちの身体は60兆個の細胞からできています。では、その細胞は何からできているのかというと、「タンパク質」です。しかし、このタンパク質がどういう過程で作られるのかについては長年の謎でした。
ワトソン、クリックがDNAの二重らせん構造を発表したのが1953年です。それを糸口に、生体内での分子の働きを解明する「分子生物学」が発展し、DNAに含まれる情報が読み取られて、私たちの身体を構成するタンパク質ができるまでの流れが解明されました。この流れは、「セントラルドグマ」と呼ばれ、それまでの顕微鏡で細胞を観察する古典的な細胞生物学を、身体に起こっている現象を化学的反応で説明しようという生命に対して新しい捉え方を広げたのです。
そして、このタンパク質のうち、身体のさまざまな機能を触媒し、調節しているものがあることが発見され、「酵素」と名付けられました。
私たちの身体の中では、数千種類もの化学反応が起こっています。これを総称して「代謝」と言います。この代謝で起こるすべての化学反応1つ1つに対して、1つの酵素が関係しています。食べたものを細かく消化する酵素は「消化酵素」、身体に入ってきた有害物質を解毒するための酵素は「解毒酵素」と呼ばれます。他にも、酸化酵素、還元酵素、加水分解酵素など多様な酵素が存在しています。
■ホメオスタシスの正体は、体内のバランスを整える酵素の作用
私たちには、身体のバランスを一定の範囲に整える「ホメオスタシス」という作用があります。日本語では「生体恒常性」と訳されます。ちょうどサーモスタットのように、体内の環境を一定の範囲に維持する働きが私たちの身体の中に備わっているのです。古代ギリシアの聖医ヒポクラテスは「人は生まれながらにして体内に百人の名医を持っている」と語り、すでに人間の身体に、ホメオスタシスの機能があることを指摘しています。
1859年ごろ、生理学者クロード・ベルナールは、生体の内部環境は組織液の循環などの要因によって外部から独立している(内部環境の固定性)という概念を提唱しました。これを1920年代後半から30年代前半ごろに生理学者ウォルター・B・キャノンが古典ギリシア語で「同一の状態」を意味する「ホメオスタシス」と命名しました(Wikipediaより)。
具体的に何が「ホメオスタシス」を作り出しているのかということについてはしばらく不明でしたが、実はそれが酵素であると分かってきました。
つまり、この酵素が触媒としての機能を働かせることで、私たちの身体のさまざまな化学反応を調節し、「恒常性」を維持してくれているということです。
■ホメオスタシスを維持するには、ビタミンやミネラルが不可欠
さらに、酵素を正常に働かせるためには、それだけでは不十分で、ビタミンやミネラルなどの補酵素や補因子と呼ばれる化学物質が酵素と結合する必要があると分かってきました。酵素というタンパク質に、ビタミンやミネラルが結合することで、初めてこの「触媒作用」が正常に機能するようになるのです。
このような分子生物学の発達を背景として1968年にライナス・ポーリングによって「分子矯正医学(オーソモレキュラーメディシン)」が提唱されました。分子矯正医学は「通常体内にある分子を、各人の身体が正常に機能するよう正しい分子濃度に調節する医学」と定義されます。日本では、「分子栄養学」と言われることが多いので、今後はこちらの名称を使用することにします。
ここでいう「通常体内にある分子」というのは、「生体分子」とも呼ばれます。身体の中で起こっている化学反応を触媒する酵素(つまり、タンパク質)やビタミン、ミネラルのことです。私たちの身体には、数千もの化学反応が起こっていて、それぞれの化学反応に対して一つの酵素が割り当てられています。さらに、それぞれの酵素が正常に機能するためには十分量のビタミンやミネラルが必要になるのです。