行政の「要介護度認定」…主治医が左右するワケ
また、要介護度認定においても不都合が生じます。認定に必要な主治医意見書に、実態 を正しく反映できなくなるからです。
主治医意見書には診断名や治療内容、心身の状態や生活機能に対する意見などが記入項目となっており、チェック式のほかに特記事項を記載する欄もあります。この自由記述スペースに患者の状態が詳しく書かれているほど、介護度を適正に出すための重要な情報となり得ます。
私は浴風会病院時代に、杉並区の依頼を受けて要介護認定の書類審査に携わっていたことがあります。
つまり主治医意見書を見る立場だったのですが、その経験からいえることは、「この主治医意見書の特記事項に何も書かれていなかったり、不十分だったりすると介護度が低くなり、十分なサービスが受けられなくなる恐れがある」ということです。
例えばそこに、しょっちゅう失禁して困っている、とか、足元がおぼつかず常に支えが必要、などと書いてあれば、介護度も決めやすいですし、それに応じたサービスも検討されやすくなります。最低限、ADL(生活動作)はどのくらいできているか、BPSDは出ているのかの情報は欲しいところです。
現在の病院に移ってからも、「以前、他院で主治医意見書を書いてもらい介護認定を受けたところ、低く出てしまった。それから数年たって認知症も進み再認定をしてほしいので、今回はこちらに来ました」というケースが少なからずありました。
良い医師にかかるということは、のちのちの介護サービスをきちんと受けられるということにもひびいてくるのです。
生活の様子を詳しく知る、という意味では「訪問診療をしてくれる医師」というのも認知症の医師選びの一つの条件になると思います。先述のように、受診を拒否している患者でも、顔見知りになると医療につながりやすくなるメリットもあります。
たとえ、アルツハイマー型認知症であると正しい診断ができたとしても、5分診療では家族に対しこれからのことも含め、十分な説明をする時間が足りません。
アルツハイマー型認知症は数年~10年と非常に長い経過をたどる病気です。家族にはその間、辛抱強く病気と向き合っていくことが求められます。同時に、どのように進行するのかや、重症度に応じたケアの仕方、心構え、また家族の心のケアも含め、主治医にはサポートの一翼を担うことが求められるのです。
先述のとおり、アルツハイマー型認知症は投薬だけではなく、家族の対処の仕方でBPSDを代表とする症状の出方が大きく左右されることは分かっています。
であるにもかかわらず、医師である自分は薬を処方すればいい、としか思っていないと、症状が強く出て家族に負担が大きくのしかかる恐れもあります。それは医師としてあまりに無責任ではないでしょうか。