相続における遺言書の重要性はだいぶん理解が進みましたが、とはいえ「書き残しさえすればいい」という認識ではいけません。相続人が判断に迷うあいまいな記述があれば、トラブルの火種になるばかりか、専門家の手を借りるなどして、結局コストがかさんでしまいます。不動産と相続を専門に取り扱う、山村暢彦弁護士が、遺言書作成のポイントを解説します。
公正証書遺言は「時間」と「コスト」がかかるが…
いいことばかりに思える公正証書遺言ですが、デメリットをあげるとするなら、まずは「作成スピード」があるでしょう。
公正証書遺言を作成するには、「戸籍を確認したうえで文案を作成→公証役場と事前協議→公証役場へ出向いて作成完了」というのが基本の流れです。遺言書の作成自体は当日30分程度なのですが、事前準備をしっかりしておく必要があるので、2~3ヵ月程度は見ておいたほうが安心です。滞りなく進めても、1ヵ月強ぐらいかかります。
それに対し、自筆証書遺言は「自分で書くだけ」なので、即日作成が可能です。自筆証書遺言を法務局に預けるのも、事前予約を入れればすぐできます。もっとも、予約の埋まり具合や、法務局の対応速度についてまでは筆者もわかりかねるのですが、おそらく公正証書遺言の作成期間よりは速いと思われます。
あとは、やはりコストの問題です。専門家に文案を作成してもらえば相応の費用がかかりますし、公証役場の手数料も財産総額に応じて発生します。その意味では、自分で自筆証書遺言を書く、それを法務局に保管してもらうほうが安いのは事実です。
ただ、自分亡きあとの揉め事リスクや、不明瞭な遺言書のせいで相続人が頭を抱える可能性を考えると、公正証書遺言のほうが、トータルで考えた場合にメリットが大きいと思います。
公正証書遺言なら「遺言書が抱える問題点はないか」「法的な内容が明確に表現されているか」という2点をフォローしてくれますが、自筆証書では、その点があいまいとなりやすく、保管制度の活用で一部解決できたとしても、法的効力の面が担保されていないため、不安が残るということです。
遺言書は、遺言者の考え通りに財産分配を行い、法的に実現するところまでが一続きです。また、作成後の分割協議や分割手続きも無事に完了しなればならず、それを考えるとやはり、自筆証書では少々頼りないというのが現実なのです。
山村法律事務所
代表弁護士 山村暢彦
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弁護士法人 山村法律事務所
代表弁護士
実家の不動産・相続トラブルをきっかけに弁護士を志し、現在も不動産法務に注力する。日々業務に励む中で「法律トラブルは、悪くなっても気づかない」という想いが強くなり、昨今では、FMラジオ出演、セミナー講師等にも力を入れ、不動産・相続トラブルを減らすため、情報発信も積極的に行っている。
数年前より「不動産に強い」との評判から、「不動産相続」業務が急増している。税理士・司法書士等の他士業や不動産会社から、複雑な相続業務の依頼が多い。遺産分割調停・審判に加え、遺言書無効確認訴訟、遺産確認の訴え、財産使い込みの不当利得返還請求訴訟など、相続関連の特殊訴訟の対応件数も豊富。
相続開始直後や、事前の相続対策の相談も増えており、「できる限り揉めずに、早期に解決する」ことを信条とする。また、相続税に強い税理士、民事信託に強い司法書士、裁判所鑑定をこなす不動産鑑定士等の専門家とも連携し、弁護士の枠内だけにとどまらない解決策、予防策を提案できる。
クライアントからは「相談しやすい」「いい意味で、弁護士らしくない」とのコメントが多い。不動産・相続関連のトラブルについて、解決策を自分ごとのように提案できることが何よりの喜び。
現在は、弁護士法人化し、所属弁護士数が3名となり、事務所総数6名体制。不動産・建設・相続・事業承継と分野ごとに専門担当弁護士を育成し、より不動産・相続関連分野の特化型事務所へ。2020年4月の独立開業後、1年で法人化、2年で弁護士数3名へと、その成長速度から、関連士業へと向けた士業事務所経営セミナーなどの対応経験もあり。
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