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コロナ禍が介護給付に与えた影響
本章では、介護保険給付の多くを占める介護サービス給付について、コロナ禍の影響をみていこう。具体的には、訪問、通い、短期宿泊、施設等入居の4つのサービスに着目していく。
通いと短期宿泊の費用額は2020年度に減少した
4つのサービスごとの費用額の推移をまとめると、次の図表5のとおりとなる。訪問と施設等入居は、年々増加している。一方、通いと短期宿泊は、2019年度まで増加していたが、2020年度は減少した。これは、コロナ禍により、自宅で生活している要介護者が、サービスを受けるために施設等に通ったり、短期間宿泊したりすることを控えた影響があらわれているものとみることができる。
通いと短期宿泊の費用額は緊急事態宣言発令時期に減少
2020年度の減少に注目して、通いと短期宿泊の月別の費用額推移をまとめたが、次の図表6だ。
通いについては、介護報酬の審査月が2020年5月~6月や、2021年2月~3月の時期に、費用額が前年より下がっている。通常、前月に行った介護サービスの審査が当月に行われるため、2020年4月~5月や、2021年1月~2月の緊急事態宣言発令時期※に減少していることがわかる。これらの時期は、要介護の人が、感染の懸念などから、施設への通いをためらうことが多かったものとみられる。
※ 東京での緊急事態宣言の期間は、1回目は2020年4月7日~5月25日、2回目は2021年1月7日~3月21日であった。
短期宿泊については、年間を通じて、増減率がマイナスで推移した。特に、審査月が2020年5月~7月や、2021年3月の時期には、マイナス幅が大きくなっている。緊急事態宣言発令中の時期に、要介護の人が、短期宿泊でのサービスを受けることを自重したケースがあったものとみられる。
1人当たり費用額は増えている
つづいて、2020年度の変動要因を探るために、前年度からの増減率を、受給者の増減と、受給者1人当たり費用額の増減に分解してみよう。4つのサービスで、それぞれ代表的な、訪問介護、通所介護、短期入所生活介護、介護福祉施設サービスについて分解したのが、次の図表7だ。
これによると、費用額が増えた、訪問介護や介護福祉施設サービスは、1人当たり費用額(②)の伸びが主因といえる。費用額が横ばい、もしくは減少した、通所介護、短期入所生活介護も、1人当たり費用額は増えており、これを、受給者の減少(①)が打ち消す構図だったことがわかる。
つまり、2020年度は、通いや短期宿泊のサービスで、受給者の数は減ったが、受給した人の1人当たり費用はむしろ増えているということになる。コロナ禍が進むなか、「サービスが受けにくくなったので、もし受ける機会があれば、そのときは以前よりも長時間のサービスにする」などと、1回のサービス内容を充実させる動きがあったものとみられる。
おわりに(私見)
今回公表された介護給付費等実態統計では、コロナ禍が介護費用に与えた影響が、明らかになった。今後、1回当たりのサービス内容を充実させたまま、以前のように、受給者数が増加していけば、介護の費用額はさらに増大するものと考えられる。
日本では、高齢化が進み、いわゆる団塊の世代が徐々に75歳以上に進んでいくなかで、長期的に、介護費用の増大が懸念されているところだ。これからの介護費用がどのように推移するのか、引き続き、注目していくこととしたい。
篠原 拓也
ニッセイ基礎研究所
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