「生命保険」を活用した相続対策のメリットとは?
先に紹介した例では相続財産が生命保険金のみの場合でしたが、同じ5,000万円を生命保険ではなく現金で相続した場合はどうなるのでしょうか。
現金で相続すると非課税枠が使えないため、使えるのは基礎控除のみとなります(その他の控除や特例等を使用できないと仮定します)[図表2]。
■相続税の基礎控除額を計算
3,000万円+600万円×2人=基礎控除額4,200万円
5,000万円(課税対象額)> 4,200万円(基礎控除額)
基礎控除額は法定相続人2人で4,200万円なので、これを超えた800万円に対して相続税が課税されます。
このように計算してみると、生命保険が相続対策として遺族の生活保障に役立つ大きなメリットがあることが分かるでしょう。
その他、生命保険は次のようなケースにも有効です。
納税資金としての活用
不動産などの資産が多い場合、相続税の納税が大きな負担となることがあるため、生命保険をかけて納税資金として活用することができます。
受取人指定ができる
生命保険は受取人を指定できます。遺産分割や遺留分の対象とならないため、被相続人が資産を残したい相手を選んで資産を残すことができます。
保険会社との契約によっては、相続人でなくても受取人に指定することが可能です。
相続放棄をしても受け取ることができる
生命保険はみなし相続財産として課税対象になりますが、民法上の相続財産ではないので相続放棄をしても受け取りが可能です。
遺産分割前に保険金を受け取れる
基本的に、遺産は遺産分割協議が終わるまで勝手に使うことができません。相続人同士の遺産分割協議が長引いた場合、生活資金に困る可能性も出てきます。
その点、生命保険は遺産分割協議と関係なく受取人を指定でき、通常、保険会社に保険を請求してから1~2週間程度で保険金が支払われるため、当面の生活資金として活用することができます。
「生命保険」を活用した相続対策のデメリットとは?
生命保険を活用した相続対策には多くのメリットがありますが、注意すべき点もあります。
遺産分割ができないことによるトラブルの発生
受取人を指定できるということは、反面、遺産分割の対象にならないということでもあります。
相続人同士、または相続人以外で受取人となっている人との間で不公平感が生まれてしまうと、トラブルに発展しかねません。
余計なトラブル発生を防ぐためにも、生前から生命保険の趣旨を説明し、関係者に理解を得ておくといいでしょう。
生命保険契約に関する権利は非課税枠が使えない
生命保険の非課税枠が使えるのは、被相続人が保険料を負担していて、死亡時に支払われる死亡保険金であり、「生命保険契約に関する権利」については非課税枠を使えません。
「生命保険契約に関する権利」とは、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約で、相続時にまだ保険事故が発生していないものをいいます。
たとえば、被相続人が父で、息子を被保険者として父が保険料を負担して生命保険をかけていた場合、その生命保険の権利を息子が引き継ぐことがあります。しかし、このような場合には非課税枠を使うことができません。
さらに、「生命保険契約に関する権利」は、契約の仕方によってみなし財産ではなく本来の財産として遺産分割協議の対象に取り込まれることもあれば、契約者ではなく保険料負担者によって相続税がかかるかどうかが決まることもあります。
まとめ
・生命保険の非課税枠の計算方法は「500万円×法定相続人の数=非課税限度額」
・生命保険は納税資金・受取人指定・遺産分割前の受け取りなどにも活用できる
・生命保険は遺産分割できないため、相続人間や受取人になっている人との間でトラブルに発展することがある
・生命保険契約に関する権利は非課税枠を使えないデメリットがある
大槻 卓也
行政書士法人ストレート 代表行政書士
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】