考案した「新たな設計プラン」で、専務はその後…
【落とし穴2】既存工場だけをベースに設計が考えられていた
2つめの落とし穴は、既存工場をベースに新工場の設計を考えていた点にある。
専務は後継者として外部の専門家の力を活かしつつ、自らが理想とする工場の姿を模索していたが、筆者らが見る限り、設計図にはその意図があまり反映されていなかった。
最初にA社が依頼した建設会社の設計は、あくまで既存工場をベースにしていたため、専務の求める工場の完成形を十分に実現できていなかったのであろう。
既存工場の設計を参考にすること自体は間違いではない。建物の規模や予算、生産機器や空調設備、現場の業務フローなどの情報は、解決策を見いだす貴重なヒントになる。
ただ、それはあくまでも「参考」でしかない。古い工場では衛生基準が低いものも多く、同じように建てても現在の基準をクリアすることは難しいケースが多い。また、設備や技術の発達は日進月歩であり、作業効率を上げるには、費用対効果を勘案しながらなるべく最新のテクノロジーを取り入れた「理想の建物」を目指す必要がある。
しかし、そもそも既存工場は工場建設の実績がない地元の工務店が設計したものであり、工場建築としてのレベルはそれほど高くなかった。実際、今まで作業の無駄があったからこそ、新工場では改善を目指していたはずである。にもかかわらず、過去の設計をもとに新たな設計に取り掛かってしまったことも、失敗の大きな要因の一つといえるだろう。
このような状況で当社はあらためて専務へのヒアリングを実施し、新たな設計プランを提案した([図表]参照)。
廊下をなくし、作業室を「田」の字型に工程順につなぐことで、一筆書きのように、「人」と「物」の流れをつくり出す合理性を重視した設計プランである。交差汚染の発生リスクを抑えられるうえに、隣り合う作業室の衛生レベルも管理しやすくなり、廊下分の床面積を縮小することで建築費の低減も実現した。
最終的にA社は当社の建設プランを採用し、専務とプロジェクトメンバーの手で当初望んだ姿以上の新工場を建設することに成功した。社長の期待にしっかりと応えた専務は、現在3代目社長に就任し、順調に事業を続けている。
森本 尚孝
三和建設株式会社 代表取締役社長