実例:「頭痛、吐き気」をもよおす怖い眼科疾患
会社の健康診断(眼圧〔がんあつ〕検査)で「緑内障」の可能性を指摘された40代の女性は、自宅から近いということで私のクリニックを訪れました。
検査してみると、幸いにも緑内障ではありませんでした。しかし、「急性緑内障発作(きゅうせいりょくないしょうほっさ)」を起こしやすい目の形状なので、定期的に検査を受けるように念を押しておきました。
私たちの目は、目の表面を潤す涙とは別の水(房水〔ぼうすい〕)が目の内側で絶えず産生され、「角膜」など血管がない組織に栄養を与えたり、「眼圧」を調整していたりします。
眼圧というのは「眼球内の圧力」のことです。まぶたの上から眼球をそっと触ると弾力を感じますが、これは眼球内を満たしている房水の圧力によるものです。
この房水による眼球内の圧力を「眼圧」というのです。
房水は目の中を循環した後、静脈へと排泄(はいせつ)されますが、水分の出口(隅角〔ぐうかく〕)が狭い人が一定の割合でいます。特に視力がよかったり遠視だったりする人の目は、この出口が狭い傾向があります。
そして房水の出口が狭い人は、加齢によって水分が詰まりやすくなる可能性があるのです。
出口が狭くて行き場がなくなった水分によって眼圧が高まると、視神経を圧迫します。眼圧が「50~60mmHg(ミリメートルエイチジー)」(正常値は10~21mmHg)以上になると、視神経が急激にダメージを受け、数日以内に失明する可能性が高まります。この状態が「急性緑内障発作」です。
真っ先に「目」を疑ったことが幸いし、失明を回避
急性緑内障発作のやっかいなところは、発作が起きたときの症状が目の痛みだけでなく、「激しい頭痛」や「吐き気」のほうが、むしろ強い場合があるということです。
こうした症状で救急外来に行っても、真っ先に疑われるのは脳の疾患です。CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(磁気共鳴映像法)で調べても脳の異常は見つからず、原因不明で痛み止めを処方されて帰されるケースもあります。
検査をして数年後、この女性は明け方に急激な頭痛と吐き気を感じ目が覚めました。
「急性緑内障発作」を起こしやすいといわれていたので「もしかしたら?」と、すぐに眼科の診療を行っている救急外来を受診しました。
そこで、早急に詰まった房水の出口をレーザーで広げ、眼圧を下げるなど複数の処置を受けたことで、幸いにも失明を免れたのです。この女性は幸い私の言葉を思い出してくれて失明を免れたのですが、「定期的に検査を受けるように念を押し」たにも関わらず、症状がないからといってしばらく「放って」おいたお陰で危ない目にあったわけです。
梶原 一人
眼科 かじわら アイ・ケア・クリニック 院長