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「まぶたが下がる病気」だと思って眼科を受診したが…
この実例は目の検査から脳の異常が見つかったケースです。
朝、メイクをするときに「なんだか、まぶたが下がってきたな」と感じることが多くなった30代の女性。職業は歯科医です。
加齢による筋肉や皮膚のたるみが原因となることが多い「眼瞼下垂(がんけんかすい)」だろうと自分で勝手に思い込み、なんだかいつも眠たそうで老けて見えることも気がかりだったので、どうにかしたいと私のクリニックを訪れました。
眼瞼下垂は、加齢とともにまぶたを引き上げる「挙筋腱膜(きょきんけんまく)」という筋肉、または神経の異常で、まぶたが下がる病気です。
加齢が原因で目が大きく開かなくなるケースが多いのですが、若い人にも増えています。筋肉が原因の場合、加齢にともなうもの以外に、花粉症などで目をこすり続けたり、コンタクトレンズによってまぶたの内側から慢性的な刺激が加わったりすることが原因になることもあります。
まぶたが下がった元凶は「脳腫瘍」だった
この女性の場合、両目だけでなくおでこなど、さまざまな方向から診察したところ、左目のまぶたが下がっている原因が“目の変形”であることに気づきました。
目の奥から眼球が押されて、わずかに前方(なおかつ下方)へ突出していたのです。そんな目の変形の結果として、まぶたが下がって見えたのです。
筋肉の衰えではなく、目の奥から脳にかけて問題がありそうだと考えた私は、CTで頭蓋(ずがい)内を確認しました。
すると、なんと脳や脊髄(せきずい)を守るための膜である「髄膜(ずいまく)」に大きな腫瘍(しゅよう)があることがわかったのです。脳腫瘍が、おでこの骨である「前頭骨(ぜんとうこつ)」を内側から押したため、まぶたが下がり、眼瞼下垂のような症状を起こしていました。
手術が必要になるため、私はすぐに脳神経外科を紹介しました。この女性のように、ささいな症状から目や目の奥、そして体にひそむ怖い病気が見つかることは決して少なくありません。
緑内障で「今年中に失明する」と言われていたが…
「残念ですが、今年中には両目とも見えなくなるでしょう」
緑内障の治療で通っていた眼科医に、そう宣告されたという60代の女性。失明してしまったら外出もままならない、もう孫の顔も見られなくなると絶望し、所持品などの身辺整理を始めていたそうです。
あまりに落ち込みが激しく、家に引きこもるようになったこの女性の娘さんが、「なんとかならないか」とインターネットで「緑内障治療」のキーワード検索をして、私のクリニックを訪れたのでした。
診察すると、激しい「ぶどう膜炎」に起因する「続発性緑内障」ではあるものの、一般的な緑内障の状態とは微妙に異なる視野障害だったため、私は脳の状態を確認しようとMRI検査をしました。
すると、両目から伸びている視神経が交差する脳の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」という場所に大きな腫瘍が見つかりました。
この女性の場合、網膜疾患の「ぶどう膜炎」による「続発性緑内障」のウラに、脳の「下垂体腫瘍(かすいたいしゅよう)」が隠れていたのです。
緑内障の中には「ぶどう膜炎」や「糖尿病」などの病気によって眼圧が上がって視神経の障害となる「続発性緑内障」という特殊なケースもあります。
この女性の場合、「ぶどう膜炎」が重症で薬では治らず、結果として上昇した眼圧もコントロールできないうえに、下垂体腫瘍が圧迫し、視神経が常に高い圧力で、しかも複数の場所でダメージを受け続けていたのです。
脳腫瘍を取り除いた結果、視野はすっかり回復
続発性緑内障の場合、緑内障の治療と同時に、原因となる病気の治療もあわせて行わなければなりません。
視神経が長期間にわたりダメージを受け続けていた場合、脳腫瘍をとり除いてもさほど回復しないケースもあります。
しかし、一時は死まで覚悟していたこの女性の場合、手術によって脳腫瘍をとり除くと「カーテンを開けたように明るくなりました!」というくらいに見えやすくなり、娘さんも驚くほどすっかり元気になったのです。
緑内障はあったものの、「今年中には失明する」と医師に宣告された視神経障害の本当の原因は、脳腫瘍だったのです。
そして「見える間にやりたいことをやろう」と、新たに山登りを始めたり、友人とカラオケに出かけたりと、活発に外出するようになりました。
着る服やヘアースタイルまで明るくなり、私もクリニックのスタッフたちも驚くほどです。
梶原 一人
眼科 かじわら アイ・ケア・クリニック 院長
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