平均69万円もの「一時的な費用」は本当に必要か?
■「過度なバリアフリー」は身体機能を衰えさせる一因
介護用ベッドを購入したり、介護を受ける人が使いやすいように住宅をリフォームしたりする平均69万円の一時費用は、本当にこれだけ必要なのでしょうか?
これはケース・バイ・ケースで、お金の問題だけではなく、かけすぎないほうがよい場合もあります。
確かに、介護を受ける人がそれさえなければ動けるような障がい物は、家の中から取り除くべきです。
しかし、いくらか努力することで使える家具や住宅内の構造に関しては、身体の機能を衰えさせないためにも、「バリアフリー」ではなく、「バリア有(あ)リー」。それをあえて残しておくという選択もあります。
一番わかりやすい例は、布団からベッドへの変更です。
布団に寝ていると、床から立ち上がる運動をおのずと繰り返すことになります。それだけでも、身体の筋力を維持するうえでは、大きな効果があるのです。
ところが、それをベッドに変えてしまったら、床から立ち上がるという運動を一日の中でまったくしなくなってしまう可能性があります。もしそうなれば、筋力が落ち、途端に足腰は弱ります。
■介護支援も介護用品も、選ぶときは「身体機能を維持できるもの」を意識
なかには、介護を受ける人が布団で寝起きできているにもかかわらず、介護用ベッドの導入をすすめるケアマネジャーもいます。それは、そのケアマネジャーに身体や医療に関する知識がないために、介護する人・される人を一時的にラクにすることだけを考えているからです。
また、ご家族も、身体機能ファーストを意識して、いろいろな介護用品を選んでほしいと思います。
たとえば、テープで脱着できる介護用の靴があります。確かに靴を履かしたり脱がしたりするのはラクになりますが、そのような靴の中には、密着具合が弱いためか、ももを上げて歩くのではなく、どうしても使用者がすり足で歩いてしまうものがあります。
個人で買ったのなら、仕方のないところもあるのですが、そういうものがさまざまな介護施設で使われているのを見かけることもあり、本当にぞっとします。
すり足で歩いてしまうと、足の筋肉が衰えたり、扁平足を助長し、そのために身体のバランスを崩して、関節痛になりやすくなったり、側弯症(そくわんしょう:背骨が左右に湾曲した状態)になったりするのです。
靴を選ぶときは、足をすってではなく、ももをきちんと上げて歩けるかどうかをしっかりと見極めてから、買ったほうがよいでしょう。
確かに、そのときに限れば、特に介護する人はラクになるかもしれませんが、介護される人は身体を使う機会を奪われることになります。
介護する人がラクになるために、介護される人の身体の機能を衰えさせてしまってよいものかどうか。簡単に答えは出ないものの、介護する側はこの問いを胸にとどめておいたほうがよいでしょう。
また、長い目で見れば、経済的な観点からも、介護される人が身体を動かさなくなるような家具や住宅構造を安易に導入することはあまりおすすめできません。
そもそも、身体の機能を維持できているのなら、介護用ベッドも大がかりな住宅のリフォームも必要のないものです。
身体の機能を衰えさせることに、わざわざ自己負担分を含めた介護保険のお金を使うのは、大きな矛盾ともいえます。
介護を受ける人の身体の機能をできるだけ維持・向上させることに努めるほうが個人にも社会にもおトクであることを、より多くの人に知ってほしいと思います。