「患者は不利益」「国の医療費は膨張」の悪循環
本来こうした医療や福祉に関わる人たちは、社会や人の役に立ちたいという思いでその職を選んだ人がほとんどです。しかし、リーダーの役割が期待されている肝心の医師が無関心では、当然ながら彼らのモチベーションが損なわれます。
こうしたプロセスを経て、意欲に燃えていたスタッフが、与えられた仕事を淡々とこなすだけのスタッフに転落してしまうこともあります。
結果として、患者の回復も遅れ、患者は不利益を被り、国の医療費が膨張するという社会的な悪循環も生みだしてしまいます。
患者の増加が社会問題化しているうつ病ですが、その患者が復職を目指す場合のサポートも、医療現場だけでは完結できません。職場という存在が非常に大きな要素としてあるので、職場との情報共有が不可欠だからです。
現実として、担当医は患者の職場の上司などと直接話したりする時間的余裕がないので、多くの場合デイケアのスタッフがそれを担います。
有能なスタッフであれば、職場の受け入れ態勢はどの程度か、慣らし勤務はどの程度可能か、その期間の給与はどうなるかといった細かいことを職場の担当者と打ち合わせし、担当医に情報共有してくれます。
職場の受け入れ態勢によって、医師が下す復職時期の判断はまったく違ってきますし、慣らし勤務の詳細が分かれば、それにスムースに接続できるようにデイケアのプログラムを組み直すことができます。
当院でも、デイケアのスタッフから連絡を受けると、最適な復職時期はいつ頃か、どんな準備やプログラムが効果的かといったことについて、作戦会議のような話し合いをしています。
うつ病で休職している患者の場合、診察室では十分回復しているように見えても、復職した途端に再発するケースは非常に多いので、復職時期には慎重な判断が必要です。そのためにも、担当医と復職デイケアは連携ができていることが理想で、それによって復職の成功率は大きく変わってきます。
しかし現実には、担当医と復職デイケアのスタッフ双方が、連携に積極的なケースはあまり多くはありません。
まず、担当医が面倒に思うケースが多くある一方、スタッフには「この患者はこれ以上良くなる余地があるのか、どのあたりの状態を落としどころと考えればいいのか」といった医学的観点からの判断ができず、その人の最適なタイミングを計ることが難しいのです。そうなると、最終的には復職の期限が来た時点で機械的に職場復帰することになってしまいます。
熟練したスタッフであれば、だいたいこうした予想はつくものです。「本当はもう少し休んだほうがいいのに」「医師が休職期間を延ばすための診断書を書いてくれればいいのに」と思っていても、医師が聞く耳をもたなければ意味がありません。
結局、スタッフが予想したとおり、うつ病が再発し、患者本人が抱える困難が増幅してしまう結果になるのです。