過剰在庫の代表選手はお玉。すべての料理人が求めるお玉を用意したせいで、気づけば0.1㏄から2000㏄まで、取り扱いは1000種類以上に及ぶといいます。プロ料理屋人に広く知られ、海外からお客が訪れるようになった結果は。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

料理道具に病院以上の喜びを感じている

とはいえ、単に売場にさまざまな商品を並べるだけでは、ほとんどのお客様は「種類がありすぎて選べない」と迷われることでしょう。実は、選択肢が多すぎるとかえって選べなくなるのは商売の常識です。

 

そこで飯田屋では、迷われているお客様には「あなたにもっとも合う一点をご提案させてください」と寄り添います。だから、料理道具の知識と接客時間が必要なのです。

 

お客様は結果として、どこにでも売っている「売りやすい商品」を選ぶ場合もあります。むしろ、そのほうが多いのも事実です。

 

それでも、少ない選択肢から「これでいいか……」と選んだものと、選びきれないほどの選択肢から「あなたにはこれがいちばん」と選ばれたものでは、満足度は雲泥の差です。

 

現在、飯田屋の在庫回転率は、業界水準の3分の1程度しかありません。正直、どう考えても非効率的です。しかし、だからこそ生み出せる感動があると信じています。

 

ある日、超高温に耐えられる五本指のオーブンミトンを探しにご来店くださった女性がいました。地元の店では見つからず、飯田屋まで足を運んでくださったとのこと。

 

その方の腕には、大きなやけどの痕がケロイド状に広がっていました。仕事で扱う高熱のオーブンに、手首までの短いミトンからのぞく腕が繰り返し当たってできてしまったそうです。そのため、耐熱性が高いだけでなく、腕まですっぽりと隠れ、しかも指が動かしやすい五本指型の長いミトンを探していらっしゃいました。

 

幸いにも、ご希望に合うミトンが飯田屋にありました。とても珍しい商品で、大手の量販店にはまずないと断言できる商品です。

 

そのお客様は僕にこう言ってくれました。

 

「病院はやけどの治療をしてくれたけど、飯田屋さんはやけどを未然に防いでくれました。だから、病院以上の喜びを感じています。ありがとうございます!」

 

とても嬉しい言葉でした。

 

ご購入いただいたミトンは5000円もする高価なものです。在庫回転率に囚われていたら、きっと仕入れられなかったでしょう。今では、耐熱性がさらに高いミトンを何種類も増やし、さらに売場を進化させていることは言うまでもありません。

 

在庫回転率だけで評価したら、最悪の売場です。でも、それでいいのです。「こんなものまである!」と仰天するお客様の顔、その後の笑顔が見たいのだから仕方ありません。
 

 

飯田 結太
飯田屋 6代目店主

 

 

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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