(※画像はイメージです/PIXTA)

家族に精神疾患の患者を持つ医師。家族も自分も精神疾患にかかっている人。どちらも珍しいことではありません。しかし、患者家族であり、自らも精神疾患の経験を持ち、その上精神科医であるというケースは極めて稀でしょう。やきつべの径(みち)診療所(静岡県焼津市)の夏苅郁子さんは、その貴重な経歴を持つ一人です。「3つの立場を経験していることは私の大きな強み」と公言し、患者と家族に寄り添った親身な精神科医療に携わっています。

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母は統合失調症、自分もうつ病を経験

夏苅さんの実母は統合失調症。夏苅さん自身も学生時代にうつ病を患い、拒食症となり、自殺未遂を繰り返した経験をしています。普通なら伏せておきたいであろう、こうした家族の事情を夏苅さんは学術論文や著書などでむしろ積極的に公表してきました。

 

「患者家族・患者・医師という3つの立場を経験していることは大きな強み」という使命感によるものです。診察室では、患者が入ってくるときよりも出ていくときの表情を注意深く読み取るようにしています。

 

晴れやかな顔つきなら問題なし。もやもやした表情であれば、こちらの気持ちが届いていないと考え、患者の言いたかったことを想像します。他科と異なり、精神科の患者の状態をつかむためには聴診器でなく、心を読むしかないからです。

跳び箱で例える積極的治療と保護的治療

例えば、がん患者はステージによって治療期間を予測し、方針を立てることができます。しかし、精神疾患は一人ひとりの状況が異なるため、そのような平均値を出すことができません。精神疾患は遺伝子の変異から始まると考えられているからです。

 

夏苅さんによると、精神疾患には積極的治療と保護的治療とがあります。前者は攻める治療、後者は守る治療です。跳び箱をより高く跳ぶための決め手は助走です。積極的治療は助走部分を直すことに重きを置きます。ですから短期間で良くなる可能性があります。

 

しかし、そのような方法が苦手な患者もいます。この場合には「いつかは跳べるから」などと励ますようにするそうです。どちらの治療法を選ぶかは初診時に確かめます。ほとんどの家族は積極的を、たいていの患者は保護的を望むそうです。肝心なのは医師の一方的な診立てではなく、患者の希望を尊重すること。「患者経験があるからこそ分かる」と夏苅さんは語ります。

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