中華圏では当たり前の「中医」という選択肢…日本で定着しない「認識の差」に迫る (※画像はイメージです/PIXTA)

中国の総合病院の多くは、西洋医学の医師、中医学の医師がどちらも在籍している。治療に西洋医学を用いるか、中医学を用いるか、もしくは併用するかは患者の症状を見て決めるのだ。日本では西洋医学のみが選択肢になっているのが現状だが、理解や認識が広がり治療の選択肢に中医学が増えれば、より多くの患者を救えるかもしれない。日本で中医師(中国医師)、鍼灸師(国家試験)として活動する于濱氏に話を聞いた。

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中国で臨床経験を積んだ中医師「認識の差」

日本での中医師の認知度の低さに驚かされたという于濱氏は「日本には、中医学で病気を治すという考えがまずありません」と語る。

 

彼女は中国の医科大学で中医学(西洋医学、中国医学/東洋医学)・鍼灸を学び、大学卒業後は大学病院で中医師として勤務していた経歴の持ち主だ。

 

「中華圏では中医師はドクターです。しかし多くの日本人にとっては、首肩こりを治すために行くマッサージや鍼灸整骨院のようなイメージですよね。

 

鍼灸師についていえば、日本では法律的に治療という言葉は使えません。施術は可能です」

 

と、中医学に対する日本と中華圏の認識のズレを指摘する。鍼灸、気功がマッサージと並列して語られる日本では、中医という言葉自体に馴染みのない人がほとんどであるし、鍼灸で病気を治せると思うか問われれば、そう思うと答える人はほんのわずかだろう。

 

両国の認識の違いには、教育機関の専門性の違いも影響していると于濱氏は考える。

中医学に対する教育の差

中華圏において、社会一般の中医学への信頼は西洋医学と同等、中医師の社会的地位も西洋医学の医師と同等である。

 

というのも、中医師、西洋医学の医師、どちらも同じく医学部を卒業する必要があるからだ。そして、中医学を専攻する医学生も、西洋医学の単位の履修が必須とされる。そのため中華圏では、中医師は日本の医師と同じ治療もできる。

 

「ですから、中国の中医師の中にはオペをする人もいますよ」と于濱氏は続ける。

 

気功、漢方、推拿(すいな)、鍼灸等は、中医学を専攻する医学生がさらに各科に分かれて専門的に学ぶ高度な医療行為であり、難病治療にも用いられるのが一般的である。

 

対して日本では、中医学の専門的知識を持つかどうかは問わず、医師免許を持つ医師は漢
方の処方、鍼灸の施術など中医学的な医療行為を行うことができてしまう。

 

さらに鍼灸に関していえば、日本の専門学校は3年制、大学は4年制となっている。中国の医学部の5〜6年よりも3〜4年短い学習カリキュラムとなっており、難病治療は基本的に含まれない。

 

日本にも国際中医師の資格を取れる試験があるが、主に通信講座などで履修されることが多く、資格は中医学の知識を有する証明のようなものにとどまる。

 

薬膳の知識を得る目的の管理栄養士、もしくは漢方への理解を深める目的の医療従事者などがスキルアップのために受講するには良いが、中国の医学部を卒業する「中医師」とは異なり、医療行為は認められない。

日本と中国の漢方の違いと制限

日本人とっての漢方は、冷え性や便秘などを生活習慣病改善するというイメージで、長期間服用しなければ効果を得られないもの、サプリメントのようなものだと思っている人も多いだろう。副作用はなく、何種類飲んでも大丈夫、と誤認していることもある。

 

しかし中国では、風邪をひいたり、不調があったりしたら、まずは中医にかかって漢方を飲むという人も多い。この認識の差には漢方自体の違いも関係しているかもしれない。

 

「うちの薬局では漢方は1〜2週間分までしか出していません。その時の体と疾患・不調に合わせて調合した漢方を飲めば、2週間で体調に変化が表れます。2週間後にまた診察し、変化した体に合わせてまた漢方を調合するんです」

 

于濱氏の薬局の漢方は中医学に基づいて調合したもので、比較的成分量が多い。

 

成分量の多い中医の漢方は疾患への効果が得られやすい反面、副作用もある。そのため中国では肝機能、腎機能を検査しながら処方していく。

 

しかし于濱氏は日本での医師免許を持たないため、患者には他の病院に出向いてもらい、検査を頼む場合もある。

 

漢方薬局で漢方を出すにしても、提携しているクリニックの医師や、在籍している薬剤師に処方箋を出してもらう必要がある。

 

さらに日本では中医的漢方の量や生薬の種類は、保険で処方する薬としてほとんど認められていないため、実費診療の場合が多い。患者に経済的な負担をかけることがもどかしいと于濱氏は語った。

判断は個人の自由だが…

于濱氏の鍼灸院に来院する患者の中には、医師や看護師、助産師等の医療従事者も多い。だが、以前は「漢方なんて効くはずがない」と否定されることもあったという。

 

あるとき、信頼関係を築き上げていた患者が突然キャンセルの連絡を入れてきた。不備や失礼があったのかと思い、焦って電話をすると、患者はキャンセルの理由について、婦人科の医師に「鍼灸治療など危ない行為だ」、「逆子にそんな治療をすれば胎児にへその緒が絡まって窒息死する」と言われ怖くなったのだと打ち明けた。

 

「中医学では、逆子の鍼灸治療は一般的で、危険な行為ではありません」と于濱氏はいう。

 

逆子の鍼灸治療に限らず、中医学について肯定するのも否定するのも、判断は個人の自由であるべきだと言うのが彼女の考えだが、「ただ、調べることもデータを見ることもなく否定されるのは残念なことです」と続けた。

 

中国では、西洋医学では限界のある治療に中医学が用いられるのも一般的だ。例えば不妊、不育治療、婦人疾患、顔面神経麻痺やがん治療後の放射線治療、脳梗塞後遺症のリハビリ等様々な難病に中医学が用いられ、薬の投与だけでは回復しない水準まで回復させることができる。それも中国では広く知られたことである。

 

「もちろん私自身中医学が全てだとは思っていません。ただ、日本でも中医学、西洋医学を平等な選択肢として捉えてもいいのではないかと思うのです」

 

于濱氏は現在、日本の医師免許を持たないことによる制限をなくし、さらに多くの患者を救うため、日本の医大受験に挑戦している。
 

 

 

 

日本治療協会会員
大阪府保健鍼灸マッサージ協会会員
日本不妊カウンセリング学会 会員 

中国の中医薬大学中医学と西洋医学を学び、付属病院で臨床経験を積み、高度な鍼灸技術を習得。日本の専門学校で履修し鍼灸師の国家資格を取得。2012年、鍼灸院「東洋一心堂」を開設。
2021年同じビルの一階に、「東洋一心堂」漢方専門薬局を開局。こちらでも様々な疾患の相談に応え最も適した漢方を提供している。
全国から不妊(女性・男性)、不育症、婦人科疾患、顔面神経麻痺、帯状疱疹後神経痛、突発性難聴、円形脱毛など難病の患者が多数来院来局している。

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