(※画像はイメージです/PIXTA)

家族に精神疾患の患者を持つ医師。家族も自分も精神疾患にかかっている人。どちらも珍しいことではありません。しかし、患者家族であり、自らも精神疾患の経験を持ち、その上精神科医であるというケースは極めて稀でしょう。やきつべの径(みち)診療所(静岡県焼津市)の夏苅郁子さんは、その貴重な経歴を持つ一人です。「3つの立場を経験していることは私の大きな強み」と公言し、患者と家族に寄り添った親身な精神科医療に携わっています。

「うつカフェ」を見たことがありますか

調査結果を「精神科医に対する通知表」と捉える夏苅さんはその成果をパンフレットや著書『精神科医療の「7つの不思議」』にまとめ、広く世の中に伝わるようにしました。

 

調査をし、それを編む作業を通じて、夏苅さんは精神科を取り巻く福祉の立ち遅れを痛感しました。「患者は医療と福祉の両輪がうまく回ることで治っていくのに、精神科ではどう考えても充実していない」というのです。

 

「例えば、最近は街中で『認知症カフェ』を見かけることが増えてきました。しかし『統合失調症カフェ』や『うつカフェ』にお目にかかったことはありません。前者は100人に1人、後者はそれ以上の割合で患者がいるにもかかわらずです」

 

“三役”を強みとする夏苅さんのもどかしさはこの点にあります。患者による精神科医療をより前に進めるため、夏苅さんは2021年、家族会組織である「全国精神保健福祉会連合会」の理事に就任。同年、権威ある「日本精神神経学会」の代議員にも選ばれました。

 

特に後者は患者や家族などの当事者が就任したという点で画期的な出来事でした。家族と精神科医の集まり、それぞれの代表者として双方をつなぐ架け橋になった夏苅さんは「これこそが私の使命」と精力的に活動を続けています。
 

 

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