父を介護した妹の主張「預金は私にもらう権利がある」
父親は亡くなる1年ほど前から体調を崩し、入退院を繰り返すようになりました。姉は夫の仕事を手伝っている立場なので、かなり自由に時間を使えますが、それでも介護だけにかかりきりになることはできません。そのため、亡くなる2ヵ月ほど前には専業主婦の妹が帰郷し、姉とバトンタッチしました。
妹は実家まで飛行機の距離の県に嫁いでいますが、子どもがいないこともあり、長期の里帰りが可能です。そのため、父親が亡くなるまで、つきっきりで介護を行ってくれました。父親の介護が妹主導で行われるなか、なし崩し的に父親のお金の管理も妹が行うようになりました。そして父親が亡くなり、葬儀が終了したあとも、妹は父親の預金通帳を手放そうとしませんでした。
田村さんが父親の預金残高を知らせるよう再三催促した結果、ようやく3000万円程度残っているという、大雑把な返事が返ってきました。田村さんは「相続税の申告の関係で、正確な数字を確認したい」と繰り返しましたが、妹はかたくなでした。
苛立った田村さんが妹を責めると、妹は「介護をした自分には預金を全部もらう権利があるはずだ」と声高に主張をはじめました。するとそこに姉が参戦し、「自宅は自分が相続すると決まっているが、預金をもらう権利なら私にもある」といいはじめ、ついには怒鳴り合いとなり、収拾がつかなくなってしまいました。
田村さんは、生前の父親が姉に名義預金を渡したことを知っているため、妹が申告している金額以外にも、現預金があるのではないかと考えています。相続税の申告のため、早く確認をしたいのですが、それぞれの思惑が対立し、話し合いはまとまりそうにありません。
弁護士や家裁の力を借りるなら、絶縁リスクも覚悟を
預金残高は、妹から通帳の写しをもらえばすむ話なのですが、現状でそれが難しいなら、預金の取引履歴を入手したほうがいいといえます。預金は相続人の1人が申請すれば取引明細を入手できますので、筆者からは、まずそれをアドバイスしました。
財産が確認できれば、次に遺産分割の話し合いが必要になりますが、現状では冷静な話し合いができそうもなく、状況が進むとは思えません。こうなると、第三者に間へ入ってもらう必要がでてきます。もし、姉と妹が田村さんと向き合う姿勢を見せるなら、筆者のところで、全員の意思を確認してたうえ合理的な分割案を提案することもできますが、現状では全員の意思確認をするのは困難です。
そのため田村さんには、弁護士に依頼して家庭裁判所の調停に持ち込むことが妥当だとお勧めしました。事前に相談する旨を通知・再確認したうえでもなお、自分達だけで遺産分割協議がむりとなれば、依頼することになります。
筆者の説明に田村さんは「やはり、そうした手段が必要ですね…」と、静かな口調へ答えました。しかしその表情は、解決に向けて気持ちが固まったように見えました。
ただし、弁護士や家庭裁判所の調停の力を借りることになると、きょうだい間のコミュニケーションがとれなくなり、絶縁になってしまうリスクは少なくありません。それを理解し、覚悟したうえで踏み切る必要があるといえます。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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