(※写真はイメージです/PIXTA)

近年マスコミ等でもしばしば取り上げられる空家問題。地方の過疎化や不動産登記が義務ではないといった社会的・法的背景はもちろんだが、相続人たちのその場しのぎの短慮な遺産分割が、年月を経て、次世代以降に想像を超える負債となってのしかかることがある。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとにわかりやすく解説する。

「適切な財産管理ができなかった」場合に問われる責任

この場合、2つのリスクがあると検討される。

 

ひとつは管理しなかったために財産価値が減少した場合、債権者や後順位の相続人から、減少した分の損害賠償請求が考えられる。

 

もうひとつは、建物などが倒壊などをして他人にケガをさせた場合、または失火の原因になった場合などの損害賠償請求の可能性だ。

 

今回のケースで可能性があるのは後者だろう。

 

では、相続放棄した方が管理を免れるには、どうすればいいのか。

 

民法によると「次の相続人が管理を始めるまで」管理義務が及ぶと規定されている。つまり、次順位の相続人がいる場合には、その人に財産を引き渡せば管理義務は逃れられる。今回のケースでは、良平さんら子どもが相続放棄をすれば、亡くなった良平さんの母のきょうだいに管理責任が行くことになる。たしかにあまり抜本的な解決になっていない。

 

もし良平さんの母のきょうだいまで相続人全員が相続放棄してしまったら、次順位の相続人は存在しない。その場合、最後に相続放棄をした相続人が、「相続財産管理人」を選任するなどをすべきだと考えられる。相続財産管理人は弁護士や司法書士が家庭裁判所から選任されることが多い。

 

ほかに相続財産がない場合は、これらの専門職の報酬及びなにかあったときの保証金等として、予納金を納める必要がある。予納金は、裁判所から数十万程度を求められることがあるため、相続財産が少ない場合、実務ではあまり用いられていないのが現状だろう。 

安易な共有が、世代を超えて「大惨事」に…

亡くなっている次郎さんの家族はすぐに見つかった。事情を話したところ、赤字となるであろうにもかかわらず、解体費用の協力もしてくれるという。しかし太郎さんは家業が上手くいかなくなって以降、行方が分からないとのこと。また、現地に住んでいる太郎さんの家族には、税金の未払い金などの請求も来ているような状況とのことだ。

 

このようなことから、父三郎さんの生家の解体はおろか、売却手続もメドがただない。

 

今回のターニングポイントはなんだったのだろうか。

 

やはり太郎さん、次郎さん、三郎さんの父が死亡した際に、「きょうだいだから」という理由で安易に「共有での相続登記」を選択してしまった点に尽きると思われる。

 

三郎さんの死亡時に、良平さんたちが相続放棄の選択をするのは難しい。三郎さんの努力で築きあげた、他の財産も放棄する事になるためだ。相続は「オール・オア・ナッシング」であり、原則としては、すべて相続するか、すべて放棄するかだ。「この不動産は使い物にならないから要らない」という選択はできない。

 

祖父の死亡時に、同居の太郎さんが家業を継いだのだから、「兄弟は平等」などとこだわらず、太郎さんが相続すればよかったのではないか、と思わざるを得ない。その場合でも、太郎さんの死亡時に、子どもらが全員相続放棄をすれば、結局は甥である良平さんたちの元に責任が戻ってきてしまうのだが。

 

行政としては、個人の財産であり、公共の安全のために撤去などの負担をしてほしいという面も理解できる。今回は、相続人である良平さんが責任感の強い方だから問題に向き合っているが、各種の報道などでもあるように、こうした問題が放置されることも多くあるだろう。今回のケースからは、地方を中心とした、空き家や危険な家屋などの放置が起こる原因と現状が、まざまざと見えてくる。

 

 

近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

 

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