(※写真はイメージです/PIXTA)

近年マスコミ等でもしばしば取り上げられる空家問題。地方の過疎化や不動産登記が義務ではないといった社会的・法的背景はもちろんだが、相続人たちのその場しのぎの短慮な遺産分割が、年月を経て、次世代以降に想像を超える負債となってのしかかることがある。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとにわかりやすく解説する。

生家所在地の市区町村から届いた「通知書」

亡くなる方が増えている昨今、自身で不動産の相続登記をするケースも増えている。子どもが3人だから安易に3分の1ずつで相続登記をする、そんなケースも多くみられる。今回も同様のケースと思慮された。

 

三郎さんには、横浜市の自宅や預貯金等、ほかの財産もあったため相続放棄をするわけにもいかない。そのため、父親の生家は、とりあえず「相続人のだれか」に相続してもらうしかない。そこで、良平さんの母親に相続してもらった。

 

今回、母親が亡くなったことと前後して、この生家が所在する市区町村から、良平さん宛に通知書が届いたとのことだ。通知書は「家屋に倒壊の危険性があるので、行政として危険な建造物と判断した。所有者として速やかに解体などの手続きを取るよう」要請するものだった。

 

驚いた良平さんだが、昔訪れた父の生家の記憶を辿り、「そうだろうな」と納得する気持ちもあった。良平さん自身、大変に責任感の強い方であり、自身も公的な仕事についていることもあったかもしれない。亡き父の生家の責任を果たすため、現地の役所と連絡を取り合い、解体工事の費用見積りなどを検討することになった。

解体費用に1000万円、相続放棄を強く勧めたが…

ところが、現地の役所や、良平さんが解体工事の見積もりを取ったところ、約1000万円程度の費用がかかるとのことだった。そこまで高額となった理由は、生家が屋根付きアーケードの設置された商店街のなかにあり、アーケードを破壊しない限り、重機を用いた解体が不可能であることにあった。すべて手作業中心の解体となるため、相当の割高となるらしい。また床面積も広く、3階建てでしっかりとした構造である点、アスベストが使用されている点なども理由だという。

 

見積もりを出してくれればいいほうで、「うちでは受けられない」と、端から取り合わない業者も複数あったという。そして、この不動産を売却しても、解体費用を上回る売却価格を得られる可能性は低い。

 

つまり解体して売却しても、赤字の公算が高いということだ。

 

今回亡くなった母親の相続財産は、数百万円程度の預貯金と、この難儀な亡き夫の生家の共有不動産程度しかない。預貯金は、母親が晩年に認知症を発症していたため、介護費用などでかなり使ってしまったのことだ。このため筆者は良平さんに相続放棄を強く勧めた。

 

良平さんからはこのような回答が返ってきた。

 

「先生、それは私も考えたのですが、相続放棄をしても管理責任から逃れられるわけでもないようです。結局は、母のきょうだいのところに請求がいくだけのようです。母のきょうだいは、父の生家とはなんら関係もない。父の生家は、私も幼少期に何度も訪れた場所なので、地域の人に迷惑をかけたくないし、なんとか私の手で解決の道筋をつけたいのです」

 

このことからわかるように、良平さんはとても真面目な方だったため、相続をして、この問題と正面から向き合うことを選択された。

 

相続放棄をした場合、亡くなった方の不動産の管理責任についてはどうなるのか。民法では以下のように規定されている。

 

民法940条

相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

 

相続放棄をしたとしても、「自己のものを管理するとき」程度の管理責任があるとされている。

 

もし相続放棄したあとに、適切な財産を管理しなかったら、どのようなリスクが検討されるのだろうか。

 

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