グッドプレーヤーからグレートプレーヤーに
2009年の不倫スキャンダルを境に激しい浮き沈みを経験したものの、2018年には長期低迷を脱し、世界のトッププレーヤーとして返り咲きます。
2019年にはマスターズで5度目の優勝。2008年大会以来ですから、11年ぶりの快挙でした。この年は日本初開催となったPGAツアー、ZOZOチャンピオンシップでも優勝しています。
私がタイガーのキャリアで他の選手と違うと感じる点は、セルフプロデュース力によって、「グッドプレーヤーからグレートプレーヤー」となったことです。
ビジネス書の名著『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(日経BP ジェームズ・C・コリンズ著)は次の冒頭の言葉から始まります。
「良好(グッド)は偉大(グレート)の敵である。
偉大だと言えるまでになるものがめったにないのは、そのためでもある。」
ゴルフの場合も「グッドプレーヤー」と「グレートプレーヤー」の間には分厚い壁が存在しています。タイガーがこの壁を破ることができたのは、天性のゴルフの才能に加え、物事を客観的かつ、戦略的に考えることのできる思考があったからです。
タイガーはジュニア時代から天才と呼ばれ、8歳で世界ジュニア大会優勝、全米アマ3連覇、マスターズ最年少優勝などを成し遂げます。しかし、若くして活躍した選手が、グッドプレーヤーから、歴史に名を残すグレートプレーヤーになるとは限りません。才能を生かしきれず表舞台から消える選手、グッドプレーヤーではあるものの、殻を破れずにくすぶる選手は星の数ほど存在します。
ゴルフに限らず、他のスポーツでもプロになるスポーツ選手の多くは、早くから「将来が有望な大器」「幼くして飛び抜けた実力を持つ」などと評された人たちです。そうした「天才」たちが集まる中で、偉大な選手になるのは並大抵なことではありません。
私はグレートプレーヤーの定義を考えるとき、「メジャー5勝、PGAツアー40勝」を1つの基準として考えています。メジャーを5勝以上している選手には、セベ・バレステロス(5勝)、フィル・ミケルソン(6勝)、ベン・ホーガン(9勝)、ジャック・ニクラウス(18勝)など歴史に名を刻む名手たちが名を連ねています。天性の素質を生かし31歳までに5勝した早咲きのセベ、才能に加えクレバーな取り組みで33歳以降に6勝した遅咲きのミケルソンなど、さまざまなタイプの偉大な選手たちがいます。