(※写真はイメージです/PIXTA)

世界経済はいま「自由貿易の時代」へとシフトしています。経済学者たちはこの流れを歓迎・あるいは必然として受け止めていますが、一部の政治家には従来型のしくみの維持を重視する人もいて、しばしば議論が展開されています。しかし、目立ちやすい部分的な損失を懸念するより、全体が利益を享受できる方向へシフトするほうが、経済発展の近道だといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

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工業製品を輸出し、農作物を輸入するのは望ましいこと

分業には、メリットがあります。お互いが得意なものを作って交換すれば、各自がすべての物を自分で作るよりもお互いにとってメリットになる、というわけですね。

 

念のため補足しておきますが、経済の世界では、どちらか片方だけがメリットを受けるような取引は行われません。ですから、取引が行われるためには、お互いにとってメリットがある条件での交換が必要となることは当然です。

 

これは、国家間の貿易でも同様です。日本は、技術力が優れていて、日本製の工業製品は世界中で人気があります。一方、日本は土地が狭いので、農業は得意分野ではありません。

 

そこで、日本は大量の工業製品を作って各国に輸出し、土地が広くて農業に適した国から農産物を輸入する、という「国際分業」が望ましい、というのが経済学者の考え方です。

政治家は「国際分業すれば農家が困る」と考えるが…

一方で、政治家は農家の反対を気にします。農産物の輸入を自由化すると、農家が失業してしまいかねないからです。

 

日本経済全体としては、農家が受けるデメリットよりも、非農家が外国産農産物を安く買えるメリットのほうが大きいのですが、少数の農家が集中的にデメリットを受けるために彼らは必死で反対するのです。

 

一方で、非農家は多数が少しずつメリットを受けるだけなので、だれも本気で農産物輸入自由化推進運動を繰り広げたりしないのです。

 

自由貿易によって輸出が増えるはずの製造業も、それほど真剣に自由貿易推進運動を繰り広げません。農家が自分に降りかかるデメリットを容易に想像できる一方で、製造業は自由貿易のメリットが実感しにくいからでしょう。

 

経済学者にいわせれば、「農家は廃業して製造業の工場で働けばいい」ということになるわけでしょうが、政治家としては「それは机上の空論で、現実的な解決策ではない」ということになるわけですね。

 

筆者としても、経済学者はときとして現実的でないことを考えるので閉口することがありますが、本件については中間的な立場です。

 

ちなみに、農業国においても事情は同じです。製造業が日本との貿易自由化に強く反対する一方で、製造業以外の人々の推進運動はそれほど力強くないので、政治家としては、どうしても自由貿易に前向きに取り組みにくいのです。

 

 

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