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故人の意思とは裏腹に、確定拠出年金の請求権は…
男性の母親は、東京から遠く離れた北海道で暮らしていたため、生計が同一であったとの疎明は難しい。
つまり、男性が預貯金と同様に積み上げた確定拠出型年金は、遺言の内容とは異なり、子ども(と親権者である元妻)のほうに全額の請求権があることになる。
つまりまとめると、
●相続財産であるマンションの売却益と預貯金については、半分が遺留分として未成年の子ども(と親権者である元妻)
●みなし相続財産については、全額が子ども(と親権者である元妻)
に渡ることとなった。
男性が財産の全額を受け取って欲しいと願った母親は、男性の相続財産(みなし相続財産も含めてだが)の半分も受領できないことになってしまった。
法律上は仕方のないこととはいえ、おそらくは最後の力を振り絞って遺言を記した男性の思いとしては、上記のようではなかったのではと察してしまう。
他方、残された未成年の側から見れば、遺留分は法律で守られた権利であるし、行使することは当然ともいえる。子どものこれからの学費などを考えれば、親権者としても当たり前のことだろう。これを受任した弁護士の先生も、依頼者の利益を第一に考えるのは当然のことだ。
今回のケースでは、立場により見方が変わるため、一概にこうすればよかった、とはいえない。ただ、後付けになるが、生前に男性から相談を受けていたとしたら、一般論としてこのような注意をしたと思う。
①確定拠出年金については、生前に自身で解約・払戻しを申し出れば、預貯金などと同様に相続財産として扱われるので遺言書で相続人の指定ができる(但し、払戻しについては厳しい要件があるようだ)
②常識的な金額の範囲で生命保険を用い、母親などを受取人とすれば、遺留分の対象となる相続財産から除外できるので、遺言よりもより効果的に財産を残すことが可能。
などだ。
もっとも、生命保険については、病気の診断後は生命保険会社に引き受けを断られてしまう可能性が高いので、今回のケースでは病気後に相談を受けていると難しかっただろう。
家族のあり方がさまざまな世の中では、子どもには財産を残したくないという人もいるだろう。また生命保険、確定拠出年金、勤務先の死亡退職金など、法律上は相続財産ではない「みなし相続財産」について、正確に即答できる方は少ないのではないだろうか。
今回のようなケースにおいても遺言書の重要性については、まったく揺らぐものではない。そもそも男性が最後に遺言を残さなければ、すべての財産は子どもの側にしか相続権がなかった。仮に生前の意思がそうであっても、遺言書という形ある書面がなければ、死後においてはなにもできない。
他方、家族の在り方、金融資産についても複雑になっていく一方なのは、世の中の流れとして変わることがないだろう。遺言書を書くことを検討されている方は、ご自身の財産の洗い出しの際に、こうした遺言や民法の相続法が適応されない資産についても、今一度精査していただくことを強くお勧めする。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
近藤 崇
司法書士法人近藤事務所 代表司法書士
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