(※写真はイメージです/PIXTA)

最新の研究成果では、新型コロナウイルスの大部分が「空気感染」であると結論付けられた。日本では飛沫や接触による感染と言われてきたため、空気感染するという事実に衝撃を受けた人は少なくないだろう。現在、国内の新規感染者は急減しているが、世界では再び増加に転じている。日本にコロナ第6波が到来する日もそう遠くないだろうといわれている。第6波を乗り越えるには、何が必要か。本稿では空気感染対策の観点から検討する。

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政府のコロナ対策は、肝心の「空気感染対策」が欠落

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の第6波対策が世間の関心を集めている。図表は欧州の感染拡大状況を示す。昨冬、日本では11月以降感染者が増加し、ピークは1月11日だった。そろそろ我が国でも感染が拡大するだろう。

 

出所:Johns Hopkins University CSSE COVID-19 Data
【図表】欧州の感染拡大状況 出所:Johns Hopkins University CSSE COVID-19 Data

 

では、第6波対策で何が重要になるだろう。私は空気感染対策、ワクチン追加接種、治療薬確保、病床確保の4つが柱になると考えている。本稿では、空気感染対策をご紹介したい。

 

コロナ流行以降、コロナを含む呼吸器ウイルスの病態生理の解明が進み、従来の対策が一変した。感染対策の中核は、いまや空気感染対策になった。ところが、このことが日本では十分にシェアされていない。

 

政府のコロナ対策の中核は「三密」対策だ。「緊急事態宣言解除後の対応」の「国民の皆さんにお伝えしたいことのポイント」として、「『三つの密』を徹底的に避ける、『人と人との距離の確保』、『マスクの着用』、『手洗いなどの手指衛生』等の基本的な感染対策の実施をお願いします」と求めてきた。肝心要の空気感染対策が抜け落ちている。

 

10月29日になって、厚労省はホームページを更新し、エアロゾルを介した感染を認めたが、方向を転換したわけではない。もし、空気感染が大きな役割を果たすのなら、濃厚接触者を探す積極的疫学調査は意味がなく、中止しなければならないが、厚労省にそのつもりはない。コロナ流行以降の世界の最新研究の成果を反映していない。

 

最新の研究成果にご興味がある方は、米『サイエンス』が、8月27日号に掲載した「呼吸器ウイルスの空気感染」という総説をお読みいただきたい。総説とは、世界中で進む研究の現状をまとめた論文だ。権威ある『サイエンス』が「総説」で主張することは、世界の科学界のコンセンサスと言っていい。本稿では、この総説に従って解説したい。

エアロゾルの感染力は「飛沫」以上

この総説で強調されるのは、コロナ感染では、唾液や咳を介した飛沫感染や、ウイルスに汚染された表面を触れることで生じる接触感染の頻度は低く、呼気中に含まれる微小なエアロゾルを吸入することによる空気感染が大部分を占めるということだ。

 

エアロゾル対策が厄介なのは感染力が強いからだ。それは、コロナウイルスの性質に負うところが大きい。コロナの検査は唾液や鼻咽頭から検体を採取して検査するため、このような部位で増殖するとお考えの方が多いだろうが、実態は違う。実はもっとも増殖するのは肺胞などの肺実質だ。無症状感染でもCT検査を行えば、肺炎像を呈することが多く、唾液や鼻咽頭の拭い液より肺胞洗浄液のPCR検査が陽性になりやすいのは、このためだ。

 

口腔内や鼻咽頭の分泌物は、咳やくしゃみ、あるいは会話を介して空中に放出されるが、肺胞内の分泌物が空気中に出るのは、通常の呼吸での呼気を通じてだ。

 

咳・くしゃみ・会話を通じて放出される分泌物を飛沫と呼ぶ。通常、そのサイズは数百μmと比較的大きく、一旦、放出されても、20センチ程度以内で地面に落下する。地面に落ちると、もはや感染しない。また、後述する肺胞から放出されるエアロゾルと比較して、この中に含まれる感染性粒子の数は少ない。さらに、一般の、咳やくしゃみ、会話の回数は、通常の呼吸より遙かに少ない。

 

一方、感染者の呼気を通じて、肺胞内から放出されるエアロゾルの大きさは、通常百μm以下で、数μmのものも多い。このような微小粒子は、一旦、空中に放出されると、その温度は約37度と気温より高いため、上層に移動する。そして、その間に水分を蒸発させる。この結果、ウイルス粒子が濃縮された微小なエアロゾルが形成され、数時間にわたって空中を浮遊しながら数メートル以上を移動する。閉鎖空間であれば、徐々に室内に蓄積する。その場に居合わせた人が吸い込めば、肺胞まで到達し、肺炎を起こす。

従来の「三密対策」では空気感染に無力

飛沫感染と空気感染は求められる対策がまったく異なる。これまで、コロナ対策では、6フィート(約1.8m)以上の社会的距離を保つことが重視されたのは、飛沫感染を重視したからだが、このような対策は空気感染には効かない。

 

空気感染に対する有効な対策は換気である。換気効率が最も高いのは屋外だ。流行当初、中国東南大学の医師たちが、記録が残っている7,324例の感染者の感染状況を調べたところ、屋外で感染したのはわずかに1例だったというのも宜(むべ)なるかなだ。屋外なら空中に放出されたエアロゾルは、その場で希釈される。

 

今年3月、神戸市の理化学研究所が、スーパーコンピューター「富岳」を用いて、マスクをせずに歩きながら会話をした場合の飛沫の拡散をシミュレートしたことが話題となった。当時は飛沫感染が重視されていたが、今となっては見当違いな研究だったと言わざるを得ない。

 

勿論、理研の研究者に罪はない。このような事実は、今回のコロナ流行で明らかになったことだ。『サイエンス』の総説でも「空気感染はこれまで過小評価されてきた」と断じている。日本がやるべきは、最新の研究成果に応じて、コロナ対策を柔軟に変更することだ。「三密対策」は早急な見直しが必要だ。

効果的に換気できているか?「CO2濃度」を見れば明白

米ジョンズ・ホプキンス大学の研究チームは、今年6月、飲食店やオフィスに設置されるパーティションは、換気を妨げるため、危険と報告している。また、大声で会話するから飛沫が飛びやすいという理由で、飲食店の営業を規制することは意味がない。屋内空間であれば、飲食店も会社・学校・交通機関も感染リスクは変わらない。

 

重要なのは二酸化炭素(CO2)濃度を測定することだ。ECサイトを検索すれば、多くのCO2モニターが販売されている。値段は5,000~1万円程度だ。医療ガバナンス研究所でも、二酸化炭素濃度モニターを購入し、各所で測定している。担当するのは、インターン中の順天堂大学医学部5年生の小嶋智郎君だ。

 

まずは、研究所内のスタッフ室を測ったところ、CO2濃度は486ppmだった。ppmとは100万分のいくつかを示す単位だ。大気中のCO2の平均濃度は410ppmで、厚労省は良好な換気基準として1000ppm以下としている。

 

医療ガバナンス研究所の場合、来客などで在室人数が増えると、すぐにCO2濃度はあがる。講師を招き、8人ほどのメンバーと勉強会を行った際には、10分ほどでCO2濃度は1200ppmとなった。私どもが有するCO2モニターは1000ppmを超えるとアラームが鳴る。窓を全開にして換気すると、700台まで低下した。約2時間の講義中、CO2濃度をモニターしながら、窓の開閉を繰り返した。私どもの研究所は、換気はあまりよくないようだ。

 

換気効率は建物ごとに大きな差がある。先日、筆者は帝国ホテルの孔雀の間で講演をした。その際、小嶋君も随行し、CO2濃度を測定した。この講演会は200人程度の聴衆が参加しており、広間は完全な密室だったが、CO2濃度は436-499ppmの範囲に留まった。高度な換気システムを装備しているのだろう。

 

帰りは地下鉄を利用した。都営地下鉄三田線内幸町駅の地上と地下改札を結ぶ階段では421ppm、ホームは509ppmだった。車内は混んでいなかったが、CO2濃度は848ppmまであがった。途中の駅でドアが開くと、769ppmまで低下した。換気により、CO2濃度が低下することを実感した。

 

小嶋君は帰宅の際、中央線を利用する。夕方の中央線は混雑しており、走行中には1297ppmまで上昇したという。混雑した車内の換気は不良だ。車両内にCO2モニターを設置するなどして、乗客が窓を開けて、自主的に換気できるようにするなど、もう少し配慮が必要だ。

 

データは説得力がある。私は、各家庭や職場、さらに飲食店などにもCO2モニターを置けばいいと思う。おそらく、換気は千差万別だ。データに基づき、臨機応変に対応すればいい。

 

世界では、ワクチンパスポートの活用が進んでいる。接種を終えた人は日常生活の規制はない。若年者は二回接種、高齢者は追加接種を終えれば、CO2濃度をモニターしながら日常生活を続ければどうだろう。コロナ対策は日進月歩だ。最新の研究成果を踏まえて、合理的に対応しなければならない。

 

 

上 昌広

内科医/医療ガバナンス研究所 理事長

 

 

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