追加接種を急げ…ワクチン接種「世界最速」だったイスラエルに、今夏「デルタ株流行」で起こった現象【医師が解説】

追加接種を急げ…ワクチン接種「世界最速」だったイスラエルに、今夏「デルタ株流行」で起こった現象【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

現状、新型コロナウイルスを予防する最大の対策は「ワクチン接種」に他ならない。しかしワクチンは、接種から時間が経つにつれて効果が低減していくことがわかっている。国内では国民の7割が2回目の接種を終えているが、今冬に来ると言われているコロナ第6波を乗り越えることはできるのか。ワクチンの効果が切れたタイミングでコロナの流行が重なった場合、何が起こるのか。今夏のデルタ株の感染拡大状況から見ていこう。

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コロナワクチンの予防効果は「半年未満」

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の第6波対策の重要なポイントとして筆者が重視するのは、空気感染対策、ワクチン追加接種、経口治療薬確保、病床確保だ。本稿では、ワクチン追加接種について論じたい。

 

なぜ、追加接種が必要なのか。それは、コロナワクチンは接種から時間が経てば、効果が低減するからだ。このあたり、ワクチン接種を済ませば、一生、効果が期待できる麻疹ワクチンとは違い、有効期間5ヵ月と言われているインフルエンザワクチンに近い。

 

コロナワクチンの効果減衰については、すでに多数の研究成果が報告されている。米ファイザー社によれば、デルタ株に対しては、2回接種から4ヵ月目には感染予防効果は53%まで低下する。米モデルナ社も、ワクチン接種後約5ヵ月で、感染予防効果が36%低下したと報告している。

 

日本からも同様の調査結果が報告されている。10月13日、福島県相馬市は、コロナワクチン接種を終えた相馬市民500人から採血し、中和活性を測定した結果を発表した。この研究では、中和活性は、2回目接種から30日未満で2,024AU/mL、30~90日で753AU/mL、90日以上で106AU/mLと急速に低下していた。

 

相馬市は、7月17日に市民を対象とした集団接種を終えた。全国で最もワクチン接種が速い自治体の一つだ。7月中旬には、16才以上の市民のうち83%がワクチン接種を終えている。高齢者の多くは5-6月に接種を終えており、今冬、流行が本格化する12月には、ワクチン接種から半年以上が経過していることになる。

デルタ株が流行した今夏、ワクチン効果が切れた国では

ワクチンの効果が切れた段階で、コロナが流行すればどうなるのか? 参考になるのはイスラエルの経験だ。同国は、世界でもっとも速くワクチン接種を進めた国だ。図表1に主要先進7ヵ国(G7)およびイスラエルのワクチン接種終了者の割合の推移を示す。

 

[図表1]ワクチン接種終了者の割合の推移

 

イスラエルでは、1月30日には国民の20%、2月16日には30%、5月2日には40%、そして5月17日には50%がワクチン接種を済ませている。英米より2ヵ月、独仏伊加より3ヵ月、日本より4ヵ月速い。

 

当然だが、イスラエルでは、ワクチンの効果が切れるのも早かった。図表2はG7とイスラエルの今夏の感染者数の推移だ。ピークの感染者数はイスラエル、英、米、仏、日、独、伊、加と続く。ワクチン接種が早かった国ほど感染者数が多いことは興味深い。ワクチンの効果が切れた時期に、デルタ株の流行が重なったためだろう。

 

[図表2]感染者数の推移

 

もっとも感染者数が多かったイスラエルの場合、日本同様、6月下旬からデルタ株による感染者が増加した。流行のピークは9月14日で、新規感染者数は1,254人(人口100万人あたり)だった。同国の冬のピーク(981.2人)を大きく上回った。日本の今夏のピークの6.8倍だ。

 

イスラエルが直面した問題は感染者数の増加だけではない。死者も増えた。ワクチン接種を済ませておけば、たとえデルタ株であろうが、感染しても重症化しないと言われている。我が国では、今夏、デルタ株が大流行したのに、第3波、4波ほど死者数は増えなかったのもワクチン接種の恩恵だ。問題は、このような重症化予防効果がいつまで続くかだ。

 

イスラエルの経験は、重症化予防効果が、意外に早く低下する可能性を示唆している。図表3はイスラエルとG7のコロナ感染者の致死率の推移を示したものだ。イスラエルでは、今年5月から7月にかけて致死率が急上昇している。5月23日には9.5%、6月14日には9.4%に達する。

 

[図表3]コロナ感染者の致死率の推移

 

これはイスラエルの医療が崩壊し、感染者が十分な医療を受けることができなかったからではない。今夏、イスラエルで、感染者が増えたのは7月中旬、死者数が増えるのは8月以降だ。私は、5月以降、イスラエルで致死率が高まったのは、基礎疾患を抱える高齢者でワクチンの効果が切れ始めたためと考えている。

追加接種は効果バツグン…致死率、重症化率ともに低下

イスラエルは2020年12月19日から、高齢者・持病を抱える人・医療従事者を対象にワクチン接種を開始した。2021年1月末の接種完了率は21%。イスラエルの高齢化率は12%だから、1月中には高齢者の接種を終えたことになる。致死率が急上昇した5月は、ワクチン接種を終えて4ヵ月となる。

 

イスラエル政府は、この致死率の急上昇に焦った。7月11日には免疫力の低い人を対象に追加接種を始める方針を明かしている。同国で感染が拡大する前から、追加接種を検討していたことになる。コロナワクチンの効果の持続性に当初から疑問を抱き、春以降、致死率が高まってきたことを考慮したからだろう。

 

追加接種は著効した。6月14日の致死率9.4%から、8月15日には0.60%、9月24日には0.15%に低下している。10月7日、イスラエルの研究チームは米『ニューイングランド医学誌』に、追加接種の有効性について、追加接種から12日が経過した段階で、非接種群と比べ、追加接種群の感染率は11.3分の1、重症化率は19.5分の1まで低下したと発表している。

 

その後、イスラエル政府は、追加接種の対象を拡大し、12才以上とした。そして、世界のどの国よりも速く追加接種を進めている。11月2日現在の追加接種完了率は45%で、9月12日には、イスラエル保健省高官が、4回目の追加接種に必要なワクチンの確保を進める方針を明かしている。

日本、ワクチン余剰なのに追加接種が遅すぎるワケ

イスラエルの経験は貴重だ。多くの先進国が追加接種を加速させている。図表4にG7およびイスラエルの追加接種の状況を示す。日本以外のすべての国で進んでいることがわかる。

 

[図表4]イスラエルの追加接種の状況

 

では、日本はどうだろうか。厚労省は、12月から追加接種を始める方針を明かしている。これでは遅すぎる。日本で、高齢者のワクチン接種が本格化したのは5月だ。早い時期にワクチンを打った人は、今冬には、接種後半年以上が経過する。免疫は低下している。

 

何が、追加接種を進めるためのボトルネックだろうか。日本にワクチンが足りないわけではない。日本経済新聞は10月7日、一面トップに「先進国でワクチン余剰」という記事を掲載した。この記事では、日本の状況について、「11月ごろまでに希望者への接種がほぼ一巡し、その後は在庫が膨らむ見通し」と説明している。さらに、自治体が設置するワクチン接種会場はガラガラだ。その気になれば、いますぐにでも追加接種を始めることができる。

 

日本で追加接種が進まないのは、追加接種の薬事承認と審議会での検討が終わっていないからだ。11月2日現在、追加接種は薬事承認されていないし、審議会でも議論中だ。10月28日に第25回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会を開催して、2回目の接種を完了してからおおむね8ヵ月以上後から行う方針で議論が進み、最終的には11月中旬に開催される次の会合で、厚生科学審議会に諮問するという。

 

私は当事者意識のなさに開いた口が塞がらない。本稿では詳述しないが、世界では追加接種の有効性や安全性について、多くの論文が発表されている。日本の審議会で議論すべきことは残されていない。コロナ対策には国民の命がかかっている。必要なことは、いますぐ追加接種を開始するという政治決断だ。後藤厚労大臣、岸田総理の政治家としての実力が問われている。

 

 

上 昌広

内科医/医療ガバナンス研究所 理事長

 

 

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