日本と欧米…感染者数は大差ナシでも真逆のコロナ対応
「なぜ、日本が緊急事態宣言を出す必要があるのですか」
知人のドイツ人から言われた。実は、私も同感だ。やり方次第で、緊急事態宣言を避けることができたと考えている。本稿でご紹介したい。
まずは図表1をご覧いただきたい。日本、米国、英国の感染者数の推移を示す。4月26日の人口100万人あたりの新規感染者数は、それぞれ38.9人、167.0人、34.6人だ。日本の新規感染者数は英国と同レベルで、米国より少ない。
欧米と比較して、日本の感染者数は決して多いわけでないのに、対応は対照的だ。英国では、小売店、美容室、さらに屋外に限ってだが、パブなどの飲食店の営業が再開された。5月17日には屋内での飲食店、映画館などの娯楽施設、ホテルの営業再開、6月21日にはマスク着用の規制を緩和し、ナイトクラブの営業を再開する予定だ。
米国は州ごとに異なるが、営業再開が続く状況は変わらない。たとえば、カリフォルニア州のユニバーサル・スタジオは4月16日に営業を再開している。4月27日には、米疾病対策センター(CDC)がワクチン接種を済ませた人に対しては、マスク着用義務を解除する方針であることが明らかとなった。
4月25日、飲食店に午後8時までの営業時間短縮、酒類提供の飲食店には休業が要請された日本とは好対照だ。
「正しい感染状況」を把握しないまま自粛を要請
なぜ、こんなに差がつくのか。それは日本国民が不安だからだ。感染者が増えると、メディアに登場する医師や有識者は「一刻も早く緊急事態宣言を発令すべきだ。そうしなければ医療が崩壊する」と主張する。冒頭のドイツ人のような意見を言う人はいない。
国民はこのような意見を鵜呑みにするしかない。それは、国民が判断するための正確な事実が共有されていないからだ。こうやって、国民は不安に陥る。この点を打破するには、私は、2つの点が重要と考えている。ご紹介しよう。
まずは、感染状態の把握だ。日本の感染者が多いのか、どこでどれくらい流行しているのか、正確な状況がわからなければ、対策の立てようがない。このためにはPCR検査体制を強化すべきだ。コロナ感染はPCR検査をしなければ診断できないからだ。
ところが、厚労省は「PCR検査抑制」の姿勢を貫いている。図表2は人口1000人あたりの検査数の推移だ。日本の検査数は英国の28分の1、米国の5分の1だ。
世界の趨勢は検査をして、陽性者は隔離(自宅を含む)、陰性者は社会活動をすることだ。週に2回の検査が推奨されている。このあたりは以前にご紹介したとおりだ。
最近は、この手法が大型イベントにも応用されている。スペインでは、コロナ簡易検査で陰性だった5000人が、ソーシャルディスタンスをとらずにライブコンサートに参加するという社会実験が行われた。2週間後の感染者は、わずかに6人で、一般の感染率の約半分だったという。
スペインの人口当たりの感染者数は日本の約5倍。4月に入り、感染者数が増加しているが、プロ野球やJリーグに無観客試合を要請した日本とは好対照だ。
どうして、日本は世界標準を踏襲しないのか。日本オリジナルのクラスター対策に固執し、無症状者も含めた一斉検査をしないのか。厚労省の態度は頑なだ。老健局の職員を中心にコロナ感染が確認されたときに、省内一斉の検査は実施されなかった。ちょうど人事異動の時期と重なり、感染者は省内に拡散された。
知人の厚労省関係者は「感染対策のため、部局全体で在宅勤務をしているところもありますし、厚労省が一斉検査をしてくれないので、民間検査センターを利用した職員もいます」という。こうなると「意地でもPCR検査はしない」といっているようなものだ。
「患者を受け入れるべき病院」が動かないため医療逼迫
検査抑制と並ぶもう1つのポイントが、医療崩壊だ。大阪や東京で緊急事態宣言が出された最大の理由は「医療体制が逼迫」したからだ。4月20日現在の入院病床使用率は、兵庫82.6%、大阪82.3%だ。東京は27.2%とまだ余裕があるが、現在の調子で感染が拡大すれば逼迫するのは時間の問題だ。
どうして、欧米と比べて、圧倒的に患者数が少ない日本の医療が逼迫してしまうのだろう。理由は簡単だ。病床数が足りないのだ。特に問題なのは、医師・看護師が多く、設備も整った大学病院が少数の患者しか受け入れていないことだ。図表3は第3波の真っ最中の1月27日現在の重症患者受け入れ数だ。
大部分の大学病院が10人以下しか受け入れていない。海外では大学病院など地元の中核病院が100人以上の重症患者を受け入れているのと対照的だ。大学病院より遙かに医師や看護師数が少ない、国立病院や都道府県立病院に受け入れを求めても、引き受けることができる患者数には限りがある。
医療逼迫も、入院先がないコロナ難民の続出も「人災」
なぜ、大学病院が受け入れないのか。それはコロナが感染症法に規定されている法定感染症だからだ。受け入れ病院は法律で規定され、予算も措置される。東京大学や大阪大学は、このような病院として認定されていない。
まず、やることは、感染症法を改正して、大学病院を感染症指定病院に追加することだ。ところが、1月の感染症法改正で厚労省は動かなかった。
厚労省は、感染が再拡大した3月24日になって、「今後の感染拡大に備えた新型コロナウイスル感染症医療提供体制整備について」という事務連絡を出し、その中で「大学病院や地域の基幹病院等の高度な集学的医療を提供できる医療機関での受け入れを中心に整備」と記しただけだ。この記載に法的強制力はなく、大学病院の状況は以前と何ら変わらない。関西で入院できずに自宅で亡くなる「コロナ難民」が多発しているのは、このためだ。
このままでは、第4波でも甚大な被害は避けられない。これはやり方次第で避けることができた人災だ。
政府まかせの対策では第4波も「日本の惨敗」確定
図表4は主要先進国(G7)のワクチン接種数の推移を示す。日本が「一人負け」なのがおわかりいただけるだろう。日本では5月から一般人向けのワクチン接種が本格化するが、独仏なみのスピードでワクチンを打ったとしても、国民の5割が打ち終えるのは、年明けとなる。
これまでの経緯をみれば、そんなスピードで打てそうにはない。最近になって、自衛隊が東京と大阪で1日に1万人の接種するセンターを設立するという話がでてきたが、これも遅きに失した動きだ。
フランスではサッカー場など全国100以上の施設を、臨時の巨大接種センターとしている。4月6日には、1998年のサッカーワールドカップの決勝戦が開催された「スタッド・ド・フランス」で接種が始まった。日本とは規模もスピードも違う。
日本のコロナ対策は、万事、この調子だ。「正念場」や「我慢の二週間」のような精神論を濫発し、対策も「都県境は越えないで(小池百合子東京都知事)」、「今は、神奈川に遊びにこないで(黒岩祐治・神奈川県知事)」など根拠がはっきりしないものばかりだ。
コロナ対策は科学的で合理的でなければならない。どうやら、政府まかせで事態は改善することはなさそうだ。国民的な議論を通じ、コンセンサスを形成しなければならない。本稿がそのお役に立てれば幸いである。
上 昌広
内科医/医療ガバナンス研究所 理事長