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自宅死が相次いだ第5波…コロナ病床は「空いていた」
「幽霊病床」問題とは、主に厚労省傘下の独立行政法人が、コロナ患者対応のために、巨額の補助金を貰いながら、患者を受け入れてこなかったことだ。
2020年度、地域医療機能推進機構(JCHO)、国立病院機構(NHO)、国立国際医療研究センター(NCGM)は350億円、1,153億円、40億円のコロナ補助金を受け取っていた。しかるに、第5波真っ只中の7月31日現在、コロナ病床の受入率は、JCHOは42%、NMOは37%だった。高度先端医療機関であるNCGMについては、第3波の1月8日、重症患者をわずかに一人しか受け入れていなかった。
この時期、巷では自宅死が続出していた。9月25日に朝日新聞が発表した独自調査によれば、8月末までに206人が自宅や施設療養中に亡くなっている。もっとも多いのは東京で90人だ。44人が第5波の最中で、25人は50代以下だった。多くは、早期に治療を受けていれば助かっていただろう。
「コロナ患者の受け入れ」はまさにJCHOやNHOの役割
この件を考える際に、注意すべきは、JCHOやNHOは、公衆衛生危機に対応することこそが、組織の設立理由であることだ。たとえば、JCHOの設置根拠法の第21条には、以下のような記載がある。
「厚生労働大臣は、災害が発生し、若しくはまさに発生しようとしている事態又は公衆衛生上重大な危害が生じ、若しくは生じるおそれがある緊急の事態に対処するため必要があると認めるときは、機構に対し、第十三条第一項第一号又は第二号に掲げる業務(これらに附帯する業務を含む。)に関し必要な措置をとることを求めることができる。」
そして、厚労大臣の要請に対しては、「機構は、厚生労働大臣から前項の規定による求めがあったときは、正当な理由がない限り、その求めに応じなければならない。」と応召義務を規定している。
このような規定が存在するのは、小泉政権下で一旦は決まった民営化の方針を、民主党政権下で変更するときに、厚労官僚や関係者が組織存続のお題目として掲げたからだ。JCHOの前身は、全国社会保険協会連合会・厚生年金事業振興団・船員保険会が運営する病院だ。
公衆衛生危機に対応するというお題目は、関係者にとって好都合だった。たとえば、JCHOには、発足時に土地・建物が無償で供与され、854億円の政府拠出金まで提供されている。法人住民税などは免税だ。理事長および常勤の理事4名のうち、尾身理事長は元医系技官、二人の理事は法令および医系のキャリア官僚の現役出向である。
ところが、厚労省は勿論、JCHO関係者に当事者意識はなかった。JCHOの尾身茂理事長は、「病床の確保は都道府県の責任」「最大限できることをやっている」という主張を繰り返してきた。
また、8月20日の厚労省の閣議後記者会見も問題だった。朝日新聞経済部の松浦新記者が、JCHOなどの独法に対して法に基づき、患者受入を要請する予定はあるかと質問したところ、田村厚労大臣(当時)は「法律というのは何の法律ですか。医療法、感染症法ですか」と聞き返した。
この回答により、厚労大臣がJCHOの設置根拠法に規定された法的スキームを理解していないことがわかってしまった。厚労官僚が大臣に対して、情報をあげていないことになる。厚労省内は騒然となったそうだ。JCHOは、急遽9月から、傘下の東京城東病院で約50床をコロナ専用病床に転換することを決定する。
一方、「幽霊病床」問題を取り上げた岸田政権は…
岸田政権は違った。10月11日に開催された財務省財政制度審議会の分科会で、この問題を取り上げ、財務省はJCHO、NHOの詳細な財務データを提示した。2020年度、JCHO、NHOには、コロナ患者を受け入れなかった病院も含めて一病院あたり5.5億円、7.0億円の補助金が支払われ、前年度より利益率が4.5%、5.6%改善していた。この資料をマスコミが報じ、国民は焼け太りの実態を知った。
その後、岸田総理は「公的病院の新型コロナ専用病床化」(10月14日記者会見)、「幽霊病床を見える化し、感染拡大時の使用率について、8割以上を確保する具体的方策を明らかにいたします(10月15日、コロナ感染症対策本部会合)」、「病床確保に当たっては、国立病院機構法等に基づく要求など、国の権限を最大限活用し、必要な医療体制を確保します(10月15日、コロナ感染症対策本部会合)」など、踏み込んだ方針を述べている。
この方針変更は合理的だ。感染症対策の基本は「選択と集中」だ。結核対策における結核専門病院をイメージすればいい。さらに、病院経営を考えれば、専門病院は公立病院が望ましい。それは、コロナ感染者受入に伴う風評被害を補填できるからだ。
病院経営者がコロナ患者受け入れを渋るのは、かかり付けの患者が他の病院に移ってしまうことによる長期的な逸失利益を懸念するためだ。国公立病院や独立行政法人には、公的資金で運営費を補填できる、つまり病院経営が赤字となっても穴埋めできる法的・予算的な枠組がある。だからこそ、JCHOやNMOは、公衆衛生危機における厚生労働大臣の命令への対応が設置根拠法に盛り込まれている。
議論すべきは、公立病院と大学医局の有機的な連携
ところが、我が国では、このことがまったく議論されていない。感染症対策での公立病院や独法の活用をもっと考えるべきだ。
JCHOやNMOの問題は、専門医の不足だ。『選択』12月号「コロナ「幽霊病床」と補助金の闇」によれば、コロナ診療で中心的役割を担う感染症内科と呼吸器内科の常勤医は、都内のJCHOの5病院で計16人、都立系3病院で計13人。常勤だけでそれぞれ13人、約30人が在籍し、後期研修医や大学院生もいる虎の門病院や東京大学医学部附属病院とは比べものにならない。
我が国の医療における医師の人事は、大学医局を中心に差配されてきた。コロナ流行のように、急に一時的に医師の需要が高まる場合には大学医局との連携が欠かせない。岸田政権は、コロナ第6波対策はもちろん、今後のパンデミック対策を考えるうえで、公立病院と大学医局の有機的な連携を議論すべきである。
上 昌広
内科医/医療ガバナンス研究所 理事長
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