米国のコロナワクチン「110万人以上が3回目接種済」…早すぎる裏事情 (※写真はイメージです/PIXTA)

世界各地でコロナワクチンが普及する中、出遅れながらも接種を開始した日本。当初の想定より早く2回目接種まで進んでいるものの、時間が経過するにつれて抗体が下がっていくことがわかっており、3回目接種に向けて準備しなくてはいけません。一方、ワクチン先進国・アメリカでは8月時点で少なくとも110万人以上が3回目を終えたと推定されています。驚異的な接種スピードの背景にある、日本では考えられない事情を見ていきましょう。

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米国では「3回目のワクチン接種」がスタート

先日、米ボストンに住む友人から「ブースター接種終了。1回目や2回目の接種と違って全然大したことではなく、すごく簡単だったわ」とメッセージが届きました。

 

状況を知りたくて電話をしてみると「CVS(大手薬局チェーン)のオンラインで予約したあと、すぐに近所のCVSに行ったの。そこでIDと前回の接種後にもらった米疾病対策センター(CDC)が発行したワクチン証明書を見せると、薬剤師さんが接種してくれた。その後はカードに日付などを記入してもらって、15分間の待機で終わり」と教えてくれました。

 

マサチューセッツ州は、早い時期からワクチン接種が進み、10月14日の時点で、州民の69%(全米では57%、日本では66%)、12歳以上では79%(全米では66%)が接種を完了しています(※1、2)

 

ただし、新型コロナウイルスのワクチンは非常に効果的ですが、その有効性は時間とともに衰えることが指摘されています。そこで、米国では条件を満たす人からブースター接種を始めています。

 

CDCは、少なくとも6ヵ月前にファイザーの2回目のワクチンを接種した、①65歳以上の高齢者、②基礎疾患のある成人(18〜64歳)、③新型コロナウイルスの暴露のリスクが高い仕事に就いている成人(18〜64歳)に対してブースター接種を推奨しています(※3)

 

さらに、ニューヨークタイムズによると、10月14日、食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は、「モデルナワクチンの2回目接種から少なくとも6ヵ月後に、半用量のブースター接種」という見解を19対0の全員一致でまとめました(※4)。通常、FDAは諮問委員会のアドバイスに従い、数日以内に決定しなくてはいけません。

 

※1 https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#vaccinations_vacc-people-fully-percent-total

※2 https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html

※3 https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/vaccines/booster-shot.html

※4 https://www.nytimes.com/2021/10/14/us/politics/fda-moderna-vaccine-boosters.html

※5 https://www.fda.gov/news-events/press-announcements/fda-authorizes-booster-dose-pfizer-biontech-covid-19-vaccine-certain-populations

ところが「独断でブースター接種する人」が続出

こうした米政府のガイドラインにもかかわらず、無許可でブースター接種を受ける人がたくさんいます。

 

ボストン・グローブに、ボストン在住の33歳の大学院生エリザベス・カルダーさんの話が紹介されています。この夏、ほとんどトレーニングなしでハーフマラソンを走ったカルダーさんは、健康上の問題はまったくありません。

 

カルダーさんは、2021年4月にジョンソン&ジョンソンのワクチンを接種し、マスク着用義務に従いました。ところが、ブレイクスルー感染の懸念を知ると、良心と格闘した後、ガイドライン上では資格がなかったにもかかわらず、免疫力を高めるために、5月と6月にファイザー製ワクチンを接種しました。接種会場では、誰からもすでに接種を受けているかどうか尋ねられなかったそうです。

 

また、ボストン在住の退職後の郵便局員ロバートさん(65歳)は、モデルナ製ワクチンの2回目接種から4ヵ月後となる8月に、市庁舎の外にある予防接種クリニックでファイザー製ワクチンを接種したそうです。理由は、安心してニューハンプシャー州に住む親戚を訪問したかったとのこと。ロバートさんは、身分証明書を持たず、偽名を名乗ったら、簡単に接種できたと振り返ります。

 

無許可の追加接種を受けた米国人の数は誰も知りませんが、CDCは、8月13日の報告では、110万人を超えると推定しました。

 

ボストン・グローブに対して、CDC広報担当者クリステン・ノードランド氏は、「当局は数字を更新しておらず、誰がガイドラインを無視しているのかを知る方法はありません。薬局や診療所に行っても、“免疫不全です”とか“ワクチン接種を受けていません”などと嘘をつくことができます。一線を越えても、個人的な罰則はありません」と述べます。

 

CVS Health社の広報担当者マイク・デアンジェリス氏によると、CVS社は顧客にワクチンを受ける資格があることを証明するよう求めていますが、書類の提出までは要求していません。

 

ニューヨーク大学(NYU)ランゴーン病院生命倫理学教授アーサー・キャプラン博士は、ボストン・グローブにて、政府が何の罰則も設けていないことを考えると、むしろさらに多くの人が不正接種していないことに驚いていると述べ、「最近の研究が、ワクチンの免疫が時間とともに衰える可能性があると示していることを考えると、制度の抜け穴を利用した人々を非難することは難しい」と語っています。

 

※6 https://www.bostonglobe.com/2021/10/08/nation/ill-take-another-shot-some-fully-vaccinated-people-are-finagling-unsanctioned-boosters/?p1=BGSearch_Overlay_Results

※7 https://www.medpagetoday.com/special-reports/exclusives/94789

医師が「接種可能」と判断しても…厳しすぎる日本

米国の状況が緩い一方で、日本には厳しい制限があります。

 

先日、私が自治体でワクチン接種に従事していたところ、20代の中国人男性が接種券を携えてやってきました。彼の中国のワクチン接種証明書には、「2月2日に1回目、3月3日に2回目で、不活性化ワクチンを接種」と書いてありました。また、彼は7月に抗体検査をして、抗体がすでになかったことも伝えてくれました。

 

ところが、そのとき自治体の担当者から電話があり「3回目の接種はまだ日本では承認されておらず、議論中です。さらに、日本で承認されていないワクチンを接種した人への3回目の対応は決まっていません。そのため今回は接種しないでください」と言われたのです。

 

結局、医師が「接種可能」と判断し、本人も「接種を希望」したにもかかわらず、見送ることになりました。日本の公衆衛生では、医師の判断より、保健所の基準が上位に位置するためでしょう。

 

もし日本で追加接種が始まっても、健康な20代男性は接種対象にならないかもしれません。そうなれば、中国人の彼も接種できず、「日本で承認されたワクチン接種の証明書なし、新型コロナウイルスの免疫なし」で生活しなければなりません。

「超高齢社会」だからこそ、日本は追加接種の緊急度大

ところで、まだデータは限られていますが、ニューヨークタイムズによると、ファイザー製またはモデルナ製ワクチンの3回目接種の後に報告された反応は、2回目の後に報告された反応と類似しています。

 

最も一般的に報告される副作用は、倦怠感と注射部位の痛みです。CDCによると、ほとんどの症状は軽度から中等度。ブースター接種がすでに行われているイスラエルの調査によると、ファイザー製ワクチンを接種した人の88%が、3回目投与後の数日間は「2回目の接種後の感覚と同じ、またはより良いと感じた」と答えています。

 

さて、日本でも、早ければ12月に医療従事者、年明けには高齢者のブースター接種が始まることがニュースで流れています。

 

ニューヨークタイムズは、米ワシントン州キング郡の「年齢とワクチン接種状況による入院率」のデータを示し、「ワクチン未接種の子供たちが重症化するリスクは、ワクチン接種を受けた50代の人々が重症化するリスクと類似している」と指摘しました(※8)。さらに、イギリスの全国統計では年齢の偏りがいっそう大きくなることを示し、「12歳未満の子供は、ワクチン接種済の40代よりもリスクが低いようだ」と述べました。

 

つまり、接種済の高齢者であっても、重症化するリスクは未接種の子供より高いということです。

 

日本は、65歳以上の人口が28%(アメリカでは16%)、国民の平均年齢は46歳(アメリカでは37歳)と、世界一の高齢化社会です(※9、10)。ワクチンが新型コロナウイルス感染症の重症化予防に貢献するのは明らかでしょう。高齢者のコロナに対する免疫が衰える前に、日本でもブースター接種が速やかに始まることを期待します。

 

※8 https://www.nytimes.com/2021/10/12/briefing/covid-age-risk-infection-vaccine.html

※9 https://www.prb.org/resources/countries-with-the-oldest-populations-in-the-world/

※10 https://www.worlddata.info/average-age.php

 

 

大西 睦子

内科医師、医学博士

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員

星槎グループ医療・教育未来創生研究所 ボストン支部 研究員 内科医師、医学博士

米国ボストン在住。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部付属病院血液・腫瘍内科にて造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。08年から13年まで、ハーバード大学で、肥満や老化などに関する研究に従事。ハーバード大学学部長賞を2度授与。現在、星槎グループ医療・教育未来創生研究所ボストン支部の研究員。

【主な著書】
『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)
『「カロリーゼロ」はかえって太る!』(講談社+α新書)
『健康でいたければ「それ」は食べるな』(朝日新聞出版)

著者紹介

医療と社会の間に生じる諸問題をガバナンスという視点から研究し、その成果を社会に発信していく特定非営利活動法人「医療ガバナンス研究所」による学会。「官でない公」を体現する次世代の研究者の育成を目的とし、全国の医療従事者が会員として名を連ねている。

著者紹介

連載医療従事者が本音で語る「日本社会」の現状~GGO For Doctor

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