コロナ感染者に「受診控え」求め、「2類相当か5類か」で議論中…進歩しない日本【医師が解説】

コロナ感染者に「受診控え」求め、「2類相当か5類か」で議論中…進歩しない日本【医師が解説】
(※写真はイメージです/PIXTA)

医療現場や保健所の逼迫を解消するため、新型コロナウイルスの感染法上の分類を「2類相当」から、季節性インフルエンザ等と同じ「5類」に見直すべきとの論議が高まってきた。5類に引き下げれば医療費の自己負担が発生する、ワクチンが有料化されるなどの懸念点が取り沙汰されている。5類への引き下げは大丈夫なのか? 内科医・上昌広氏にそう尋ねたところ、思いがけない回答が得られた。上昌広氏が、今こそ議論すべき問題について提言する。

「2類・5類問題」というズレた議論

コロナ第7波が峠を越えた。政府は来たる臨時国会で、2類相当の見直しを議論する予定だ。見直しを求める人は、保健所への届け出など医療機関の負担が大きいことを問題視し、慎重派は、5類にすると感染者の全数把握が不可能となり、さらに医療費の自己負担が生じるなどを問題点として指摘する。

 

私は、このような議論はピントがずれていると思う。それは、2類・5類問題は議論の余地がないし、国民にとって優先順位が低い話だからだ。

 

国民の多くがワクチン接種や実際に感染することで、一定レベルの免疫を獲得した現在、オミクロン株は過度に恐れる病原体ではない。多くの国民は感染しても軽症で治癒する。感染症法は「まん延を防止するために必要な最小限度」の規制しか認めていないのだから、2類感染症からは外すべきだ。日本政府は「ウィズ・コロナ」を推進している。2類感染症と「共存」などあり得ない。

 

もし、慎重派が指摘するように、5類に下げても、全数把握が必要なら、医療機関は感染者数だけ保健所に届ければいい。現在、感染経路からワクチン接種日まで、膨大な情報を報告しなければならないが、こうすれば政府が全数を把握しながら、医療機関の手間は大幅に削減されるはずだ。さらに、感染者の医療費負担が問題なら、自己負担分を予算措置すればいい。今でも、感染症法の枠組で公費を支出しているのだから、新たな財源措置は不要だ。岸田政権が本気になれば、すぐにやれることだ。

 

コロナ対策では、こんな些末な問題よりも、議論すべき重要なことがある。それは感染症法のあり方だ。第7波が峠を越え、冬の第8波に準備しなければならない今こそ、国民的な議論をするべきだ。

5類への引き下げをためらう「本当の事情」

感染症法の問題は、隔離一辺倒であることだ。これは、その雛形である伝染病予防法に由来する。この法律ができたのは明治時代だ。当時、抗生物質も検査もなく、明治政府は、国家を感染から守るため、感染者・家族・近隣住民を強制隔離した。そして、その実務を担ったのは、内務省衛生警察・保健所・伝染病研究所だった。衛生警察は厚労省、伝染病研究所は東大医科研と国立感染症研究所に引き継がれ、現在も基本的な枠組は変わらない。積極的疫学調査、濃厚接触者に重点が置かれるのは、このような歴史があるからだ。

 

問題は、強制隔離は大きな権限と予算を伴うことだ。厚労省や専門家は、自らの権限の源泉である強制隔離を手放そうとはしない。これが、我が国で漫然と2類相当が続いた理由だ。

 

厚労省や国立感染症研究所が、今春まで、コロナの空気感染を長い間認めなかったのも、その権限と予算を考えれば分かりやすい。もし、空気感染が感染拡大の主体であれば、全国の保健所をフル動員して実施した積極的疫学調査による濃厚接触者探しが無意味と分かってしまう。コロナ流行から2年間以上、科学的に合理的でない対策を推奨していたことになる。

 

今後のパンデミック対応では、積極的疫学調査の規模は大幅に縮小すべきという議論になるだろう。それは国立感染症研究所や保健所の権限とポストの削減に繋がる。政府の専門家の中には、国立感染症研究所や地方衛生研究所の関係者が名を連ねる。彼らにとってはありがたくない話だ。

 

話を強制隔離に戻そう。もちろん、コロナなどの未知のウイルスが流行すれば、「2類相当」などと認定し、強制隔離を含め、慎重に対処することに、私も反対はしない。ただ、この対応の継続は、数ヵ月単位で定期的に見直すべきだ。今回のコロナの流行で、厚労省は「技術的助言」に過ぎない通知を乱発したが、一貫して「2類相当」の見直しには消極的だった。それは、医系技官・専門家などの利害関係者が議論をリードしたからだ。定期的な見直しの仕組みを感染症法に明記し、社会がチェックできる枠組を法的に担保すべきである。

感染症法で「国民の権利」を保障すべき

さらに重要なことは、感染症対策の基本的な姿勢を議論することだ。私は、国家の防疫より、国民の権利の保障を優先すべきと考えている。具体的には、医療や検査を受ける権利、隔離される権利などを感染症法で保障し、社会を挙げて、患者のニーズを追求することだ。

 

実は、そのような姿勢こそが医学を進歩させる。コロナ対応も例外ではない。流行当初、感染を恐れた世界中の人々は、「病院に行きたくない。他者と接触したくない」と希望した。このようなニーズに応えるべく研究が進んだのが、遠隔診療・在宅検査・センシング技術などの開発だ。この結果、コロナ感染者は自宅にいながら、医療を受けることができるようになった。医療関係者に加え、IT企業や物流企業などが試行錯誤を繰り返し、新たな「エコシステム」を確立したのだ。これが米国などで感染爆発しても、日本ほど医療が逼迫しなかった理由だ。

 

このような技術開発は、米国の医療レベルを底上げした。昨年11月、米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、糖尿病治療薬カナグリフロジンの第3相臨床試験を、被験者が医療機関に通院することなく、すべてバーチャルでやり遂げた。さらに、ユナイテッドヘルスケア社などが、遠隔診療に限定したプライマリケアを提供する保険の販売を開始した。この枠組は、医師不足に悩む僻地医療問題の解決にも貢献するはずだ。

 

ところが、厚労省や専門家は、国民の権利の保障には後ろ向きだ。第7波になっても、臆面もなく、保健所や医療機関を逼迫させないため、受診の自粛を求めている。こんな主張をしている限り、日本社会は進歩しない。今こそ、何のためのコロナ対策なのか、その基本に立ち返った議論が必要である。

 

 

上 昌広

内科医/医療ガバナンス研究所 理事長

 

 

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※本記事は、オンライン診療対応クリニック/病院の検索サイト『イシャチョク』掲載の記事を転載したものです。

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