(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

半導体不足、アジアのコロナ禍に伴う部材供給不足で3ヵ月連続前月比低下

 

経済産業省の生産指数・基調判断は「足踏みをしている」で継続

 

7~9月期は5四半期ぶり・前期比下降だが、10~12月期は上昇か

 

9月分一致CI前月差下降が予測され、基調判断は「足踏み」に下降修正か

 

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・9月分速報値・前月比は▲5.4%と、半導体不足に加えて、東南アジアでの新型コロナウイルス禍に伴う部品調達難等で、3ヵ月連続の低下となった。季節調整値の水準は89.5で、20年8月の88.3以来の水準になった。前年同月比は▲2.3%で7ヵ月ぶりの低下となった。

 

●9月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち無機・有機化学工業など4業種が前月比上昇したが、自動車工業を中心に、汎用・業務用機械工業を始め11業種が低下したことから全体として低下した。

 

●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分で下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、21年7月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっていたが、前回8月分では、19年1月分・2月分以来の、「生産は足踏みをしている」に引き下げられた。今回9月分では、「生産は足踏みをしている」で継続となった。

 

●先月発表された製造工業予測指数9月分は前月比+0.2%上昇の見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、9月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.3%の低下になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲3.2%~+0.6%になっていた。実際には、鉱工業生産指数の前月比が▲5.4%の低下になったが、これは製造工業予測指数や、試算値最頻値の下限を大幅に下回る低下率である。

 

●9月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲6.2%と3ヵ月連続の低下になった。前年同月比は▲4.6%で7ヵ月ぶりの低下となった。

 

●9月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比+3.7%と3ヵ月ぶりの上昇になった。前年同月比は+0.8%と17ヵ月ぶりの上昇となった。

 

●9月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+5.9%で、3ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は+0.7%と12ヵ月ぶりの上昇となった。

 

●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数・前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年7~9月期までは「在庫調整局面」の状態にあったが、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」になっていた。4~6月期では在庫の前年同期比▲5.0%、出荷が前年の反動もあり、前年同期比+18.8%と2ケタの伸び率になり、「在庫積み増し局面」に入った。7~9月期では在庫が前年同期比+0.8%、出荷が前年同月比+4.2%の伸び率になり、引き続き「在庫積み増し局面」となっている。

 

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると10月分は前月比+6.4%の上昇、11月分は前月比+5.7%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、10月分の前月比は先行き試算値最頻値で+2.4%の上昇になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は+0.4%~+4.4%になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数、10月分を先行き試算値最頻値前月比(+2.4%)で延長したあと、11月分を製造工業予測指数前月比(+5.7%)で、12月分を前月比横這いで延長すると、10~12月期の前期比は+1.1%の上昇になる。また、10月分・11月分を製造工業予測指数前月比(+6.4%、+5.7%)で、12月分を前月比横這いで延長すると、10~12月期の前期比は+5.0%の上昇になる。7~9月期は5四半期ぶり前期比低下になったが、10~12月期は前期比上昇に戻る可能性が大きい状況だろう。

(9月分の景気動向指数・速報値予測)

●9月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲1.8程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数の4系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新設住宅着工床面積、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの5系列が前月差マイナス寄与になるとみた。

 

●9月分の一致CIは前月差▲2.0程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、商業販売額指数・小売業、有効求人倍率の2系列が前月差プラス寄与に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の6系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●9月分で景気の基調判断は、景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正されると予測する。下方修正の条件は「3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累計)が1標準偏差分以上かつ当月の前月差の符号がマイナス」になることである。9月分は一致CIの前月差が下降で、9月の3ヵ月後方移動平均は▲1.77程度と、前月差が1標準偏差分の▲1.00を大きく上回ると予測する。なお、「改善」に戻るためには、「3ヵ月以上連続して、3ヵ月後方移動平均が上昇」という条件があるため、しばらく「足踏み」のシグナルが点灯することになろう。

 

●9月分の先行DIは44.4%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、新規求人数、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数の4系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル) 、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新設住宅着工床面積、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの5系列がマイナス符号になるとみた。微妙な新設住宅着工床面積がプラス符号になった場合は55.6程度と50%超になる。

 

●9月分の一致DIは12.5%程度と景気判断の分岐点の50%を下回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、有効求人倍率の1系列がプラス符号に、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の7系列がマイナス符号になると予測した。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年9月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

(2021年10月29日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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