(※画像はイメージです/PIXTA)

11月2、3日のFOMCでFRBはテーパリング開始を決める見込みだが、市場が大きく反応することはないだろう。マーケットが織り込んでいないのはインフレのリスクではないか。FRB、市場ともに足下の物価上昇を一過性の現象と見ているようだ。しかし、国際的なサプライチェーンの分断と巨大な流動性の存在はインフレの温床であり、市場に大きく影響する可能性は否定できない。

「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー

テーパリング:マーケットは既に開始を織り込んだ

10月22日、FRBのジェローム・パウエル議長は、BISと南アフリカ準備銀行共催のカンファレンスにリモートで出席、物価上昇がエコノミストや政策担当者の当初の予測よりも長く続く可能性を示唆した。その上で、テーパリングに積極的な姿勢を示す一方、まだ利上げの時期ではないとの見解を示している。11月2、3日のFOMCにおけるFRBのテーパリング開始決定は、既にマーケットのコンセンサスと言えるだろう。

 

ちなみに、10月21日現在、FRBの資産規模は8兆5,649億ドルに達していた(図表1)。

 

期間:2008年~2021年10月 出所:FRBのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]FRBの資産規模 期間:2008年~2021年10月
出所:FRBのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

新型コロナ禍による緩和直前だった昨年2月第4週と比べて4兆4,063億ドル増加であり、米国の名目GDPに対し37%に相当する。これはリーマンショック前の平均的な水準の約6倍だ。

 

テーパリングはマネタリーベースの供給拡大を減速し、時間を掛けて停止する作業である。従って、既に市場にあるマネーが回収されるわけではない。また、パウエル議長はじめFRB幹部は繰り返しテーパリングの可能性を示唆してきた。従って、FRBが実際にテーパリング開始に踏み切ったとしても、マーケットが大きく反応することはないだろう。

インフレのリスク:期待インフレ率が示す一過性のシナリオ

米国のコア消費者物価上昇率に対して、インフレ連動債と10年国債の利回り差から算出した市場の期待インフレ率は、従来、1年程度先行する性質があった(図表2)。これは、マーケットが先行きの物価動向をかなり正確に予見してきたことを示唆している。

 

期間:1998年~2021年9月 出所:米国労働省、Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]米国の消費者物価と市場の期待インフレ率 期間:1998年~2021年9月
出所:米国労働省、Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

しかしながら、今回のケースでは、コア消費者物価上昇率が4%台に達している一方で、足下の市場が織り込んだ期待インフレ率は、一時に比べて上昇したとは言え2.6%台に過ぎない。FRBは、米国の物価上昇について、新型コロナ禍からの経済回復期における一過性の現象と説明してきた。現在の期待インフレ率は、市場がFRBの説明を受け入れていることを示唆している。だからこそ、米国の10年国債利回りは1.6%台に止まっているのではないか。

 

しかしながら、1991年12月の旧ソ連消滅から続くグローバリゼーション、つまり唯一の覇権国である米国主導の世界的なサプライチェーン統合は、米中両国による新たな分断の時代の下で終わりを告げようとしている。資源の争奪戦による影響を含め、経済的コストが上昇する可能性は否定できない。さらに、リーマンショック、新型コロナ禍の下で供給された大量の流動性は、通貨価値下落の温床となり得る。

 

仮に市場がインフレ長期化のシナリオを織り込む場合、米国のイールドカーブは急速に右肩上がりになるだろう。その時、資産価格のバリュエーションにも大きな影響が及ぶと想定される。少なくともリスクシナリオとして、インフレの可能性に注意すべき段階なのではないか。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『リスクはテーパリングではない』を参照)。

 

(2021年10月29日)

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社 シニアフェロー

 

「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー

 

日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
圧倒的知識で各専門家が解説!カメハメハ倶楽部の資産運用セミナー

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

 

【1/7開催】<令和7年度>
税制改正大綱を徹底解説
最新情報から見る資産運用への影響と対策

 

【1/8開催】オルカン、S&P500…
「新NISA」の最適な投資対象とは
金融資産1億円以上の方だからできる活用法

 

【1/9開催】2025年の幕開け、どうなる?日本株
長いデフレ環境を生き抜いたスパークスが考える
魅力的な企業への「長期集中投資」

 

【1/9開催】相続人の頭を悩ませ続ける
「共有名義不動産」の出口は“売却”だけじゃない!
問題点と最新の解決策を藤宮浩氏が特別解説

 

【1/12開催】相続税の
「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?
【見逃し配信special】

 

 

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録
会員向けセミナーの一覧