(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年8月20日に公開したレポートを転載したものです。

コロナ禍のいま観光業が重要なワケ

コロナ禍が無かったら今何が起きていただろうか。オリンピックを契機として日本に4000万人の観光客が殺到し、一人当たり20万円の支出とすると8兆円の新規外需が日本の国内産業に落ちていたはずである。日本の安価・高品質の観光資源・サービスが世界の中産階級に提供され、需要は急増しただろう。

 

世界どこを旅しても日本ほど安く安全で美味しいところはない。日本の内需が外国人によって満たされるという10年前には考えられなかった、うれしい転倒が起こっている。これはポスト・コロナにおいて、顕著なトレンドになっていくであろう。

 

「安いニッポン」は輸出産業は言うまでもなく国内産業においても、価格競争力上昇、需要増加となって日本経済復活の好循環を惹き起こす可能性が高い、と考えるべきではないか。

 

[図表10]コロナが終息すれば、外国人が日本の内需産業の大きな買い手になる
[図表10]コロナが終息すれば、外国人が日本の内需産業の大きな買い手になる

 

コスパが特に良い日本の観光業、バラッサ・サムエルソン仮説が効く

「安いニッポン」はことに、日本の内需産業、サービス価格で顕著であり、外国人から見た日本観光のコストパフォーマンスは非常に高いとみられる。

 

なぜ日本の国内価格が外国人から見て、魅力的なのか、それは国際経済理論上の有力な論理、バラッサ・サムエルソン仮説で解釈が可能である。

 

バラッサ・サムエルソン仮説は、世界の賃金は一物一価であり、労働生産性が同一の二か国の労働賃金は同一になるという原則から出発する。但し、それは相互に国際市場で競争をしている貿易財(主に製造業)に対してのみあてはまることである。

 

それでは国際市場で競争をしていないサービス業など各国の内需産業の賃金はどう決まるのかと言うと、その国の貿易財産業で形成された国内賃金相場にサヤ寄せされて決まる。つまり貿易財産業においてA国の生産性がB国の2倍であれば、A国の貿易財産業賃金は、B国の貿易財産業の2倍になる。その結果A国のサービス産業の賃金もB国のサービス産業賃金の2倍になる、と言うことが起きる。A国、B国のサービス産業賃金は生産性に関係なく決まるということである。

 

概してサービス産業、例えば床屋さんの生産性は、先進国でも新興国でもあまり違いがない。しかし先進国の床屋さんの賃金は新興国の10倍にも相当する、ということが起きる。つまり生産性あたりの賃金価格差が、サービス産業において特に大きく開いているのである。

 

しかしここで国際交流が活発になり、サービス産業にも外国人の顧客がつくようになれば、事情は変わってくる。B国の割安なサービス産業(生産性があまり変わらないのに価格が半分)に海外需要が殺到することになる。

 

日本の観光関連の価格が国際比較で大いに割安化していることは、中藤さんの著書から明らかなので、日本の観光需要が大きく増加する、と期待される。「安いニッポン」は、観光という国内産業に現れた外需によって、大きく是正されていくと、見られるのである。

 

このように「安いニッポン」は製造業以上に、内需産業での物価アップサイド圧力を強めることになる。観光業の隆盛が日本のデフレ脱却の牽引力になると考えられる。

 

 

武者 陵司

株式会社武者リサーチ

代表

 

 

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