「安いニッポン」は是正すべきか
しかし「安いニッポン」は日本衰弱の証拠であり、これは困ったことだ、「安いニッポン」を是正しなければ、という反応が高まっている。それは一見自然なことのように思われる。
どうすれば「安いニッポン」を是正できるのか。二つの方法が考えられる。その第一は円安是正である。物価下落相応の円高になれば、日本の失われた国際購買力は復元できる。円高になれば価格が高騰したズワイガニを、再び日本人が口にできる、という議論は多くのエコノミストに共有されている。
第二の「安いニッポン」の是正は強制的な賃金の引き上げである。政府の成長戦略会議メンバーであるデービッド・アトキンソン氏は最低賃金の引き上げにより、安価な労働力に依存した中小企業の経営モデルの転換を促す必要があると訴えている。
「安いニッポン」是正は有効ではない
しかし、この二つの「安いニッポン」是正策は、経済合理性を欠き有効ではないだろう。日本のデフレ・賃金下落は著しい円高で競争力を失った日本企業が、賃金引き下げを余儀なくされたことから始まっている。
さらに円高になれば、企業は競争力維持のために一段と賃金を引下げざるを得ない。または海外への工場移転を進めざるを得ない。まさに円高デフレの蟻地獄である。
また日本の賃金を強制的に引き上げよ、という政策はそれだけでは実現可能とは思われない。低賃金は日本企業の価格競争力の低下に起因しているのであるから、そこで賃上げを迫れば企業収益が悪化し、企業の賃金負担能力は一段と低下する。