高齢化が進展する日本では、認知症は非常に身近な問題です。もし被相続人が認知症になってしまったら、相続対策の選択肢は限られたものだけとなり、相続も非常に困難かつ不本意なものになりかねません。そのような事態を回避するには、早い段階で「遺言書」作成を進めることが大切です。多数の相続問題の解決の実績を持つ司法書士の近藤崇氏が解説します。

 

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高齢の家族を抱える人の「心配の種」

高齢化が進展している日本では、「高齢者の認知症」は非常に身近な問題となった。高齢の家族を抱える方にとっても、大きな心配の種ではないではないだろうか。

 

認知症の増加は、医療費の増大や介護人員の確保への懸念など、社会的な側面からも由々しき問題となっているが、各家庭では、認知症の家族が「相続トラブル」の引き金となることがあるため、事前の対策を怠らないよう留意が必要なのである。

 

今回は、ある会社員の女性のケースをもとに、認知症の家族が関係する相続の注意点を考察していく。

40代女性、認知症の父と障がい者の姉は施設で生活

40代の会社員の彩子さんには、父親と姉の2人の家族がいる。父親は1年前に要介護認定を受け、現在は介護施設で暮らしているが、その数年前から軽度の認知症の診断を受けていた。姉は幼いときから障がいがあり、24時間の看護が必要なため、ずっと施設で暮らしている。

 

彩子さんは大学卒業後すぐに母親を亡くし、以降はずっと父親と二人暮らしだった。勤め先は都内のアパレル企業で、横浜市の自宅から通勤している。彩子さんの父親は定年まで大手企業に勤務し、退職金も年金も高額なほうだ。また、彩子さんの父方の祖父母から受け継いだ横浜の自宅は立地がよく、資産価値も高い。

 

彩子さんは同僚から聞かされた相続トラブルの悩みをきっかけに、自分の家も対策が必要なのではないかと思いはじめ、知り合いに紹介された司法書士の事務所を訪れた。

 

*  *  *  *  *  *  *  *

 

「相続について相談させてください。私には、施設で暮らしている認知症の父と、看護が必要な姉がいます。父に万一のことがあった場合、相続をどうしたらいいのかと思いまして…」

 

「お父様の現在の状況と、ほかのご家族についてくわしく教えてくださいますか?」

 

「父は70代後半で、元会社員です。勤め先を定年退職したあと、ずっと自宅で隠居生活をしていたのですが、転倒をきっかけに要介護になり、1年前から介護施設に入所しています。認知症は、その数年前に診断を受けています。私の姉には障がいがあり、小さいときからずっと施設で暮らしています。母は私が大学を卒業してすぐ亡くなりました」

 

彩子さんの父親は施設に入る際、預金通帳や不動産に関するさまざまな書類、実印などを彩子さんに託していた。施設入居費用は、彩子さんが代理人となっている父親の銀行口座から自動で引き落しされている。父親の生活に必要なこまごまとした品も、その銀行口座のお金を使って購入していた。

 

「じつは、父には内臓の持病があり、この先、あまり長くないのではと思っているのです。資産の内容はだいたい把握しているのですが、父は認知症の診断を受けていますし、姉は障がいがあって寝たきりです。こういった場合、相続ではどんな点に気をつけないといけないでしょうか?」

 

司法書士は、ひと呼吸おいて話しはじめた。

 

「対策としていちばん有効なのは〈遺言書〉の作成でしょう。ただし、これはお父様の認知症の進行によって、実現可能なケースと、そうでないケースがあります。恐縮ですが、お父様の認知症はどのような具合ですか?」

 

「面会に行けば、私のことはわかります。会話もゆっくりなら大丈夫です。昔のことは比較的よく覚えているのですが、新しく知り合った人や、最近の出来事は覚えていられないようです。あと、あまり交流のない親族のことも思い出せないようですね」

 

「ほかに何か、昔と変わったとお気づきになることはありますか?」

 

「父は本や雑誌が好きでしたが、いまではほとんど読まなくなりました」

 

「そうですか。ではまず、いまのお父様に遺言能力があるかどうか、お医者さんに診断してもらってください。こんなことを申し上げるのはなんですが、これから悪くなることはあっても、よくなることは考えにくいですから、できるだけ早めの対処が望ましいです」

 

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