前回は、実際にキャッシュフロー計算書の読み方を説明しました。今回は、営業キャッシュフローの重要性について見ていきます。

まずは減価償却の「定率法」と「定額法」の違いを理解する

企業の投資活動や財務活動を行うための資金は、本業である営業活動で稼いだお金が原資になります。その点で、キャッシュフローの中でも営業活動によるキャッシュフローが一番大事です。そこで、営業キャッシュフローの部分にクローズアップして、もう少し詳しく見ておきます。

 

前回挙げた図表にある「減価償却費」の値がプラスになっている理由がお分かりになるでしょうか? たとえば、100万円の機械を購入したとします。減価償却というのは、設備が一定期間をかけて少しずつ消耗していくという考え方です。定額法を採用する場合、耐用年数が5年なら購入した年から5年をかけて、機械の価値が1/5ずつ減っていき、最終的にゼロになります。

 

つまり、購入2年目は機械の価値としては20 万円分減るわけですが、実際に現金として20万円が出ていくわけではありません。そのため、20 万円はプラスの計上になるのです。減価償却の方法には、今説明した定額法の他に定率法というのもあります。こちらは毎年、一定率を費用として計上していく方法です。

 

定率法は定額法よりも減価償却のスピードが速いので、初期段階での償却額が大きくなります。これを利用して、意識的に会計処理を変えるやり方ができます。ここ数年間は利益がより多く欲しいという場合は、定額法を選択すれば費用計上が少なくなり、プラス計上が多くできます。

 

逆に、少しでも利益を押さえ、法人税を低くしたいというときには、定率法を選択して費用計上を多くすれば、プラス計上を少なくできます。ただし、定額法と定率法はその場その場で有利なほうを選ぶといった任意の切り替えができませんので、計画性が大事です。

 

減価償却で1つ触れておきたいのは、2005年の「姉歯による耐震強度偽装事件(姉歯件)」です。あの事件は建物の減価償却を計上しなかったことで、別件で強制調査および摘発を受けた初の事件です。税法では減価償却費の計上は任意の取扱としていますが、会社法上では適正な計上を義務付けています。

損益計算書では黒字でも倒産するカラクリ

もう1つ、営業キャッシュフローで重要なのが「売上債権の増加額」です。中小企業においては、特にこの売上債権が大きく影響してきます。売上債権というのは、売掛金や手形債権のことです。

 

たとえば、スーパーで買い物したとき、その場で代金を支払います。スーパー側は100円の商品を売ったと同時に現金100円を手にします。本来の売買は、このように物とお金が同時に交換されるのですが、企業の営業活動では先に物だけ渡して、後から代金を支払ってもらう形が多くなります。実際のお金が入ってくるまでに何カ月かのズレが生じるのです。

 

このような未収入金のことを売掛金と呼ぶわけですが、下請けの会社になると発注先から期日通りに入金がされないことがあります。どの会社も一刻も早く資金を回収したい気持ちは同じですから、力関係で弱い立場にある末端の会社ほど、後回しにされ入金が滞ってしまうのです。

 

すると、損益計算書のうえでは売上が上がって黒字になっていても、実際にはお金は入ってきていませんから、資金は増えません。これが続くと深刻な資金不足になり、最悪の場合は倒産してしまいます。

 

このように、見かけ上は黒字なのに、現状は資金不足になって倒産してしまうことを「黒字倒産」といいます。経済というのは元来が不安定な性格のものです。つまり、企業は好不況に遭遇するものであって、毎年成長するのは非常に難しいことなのです。

 

にもかかわらず、いつも総資産(貸借対照表の最後尾の数字)が増加している企業というのは注意しなくてはなりません。本当に売上の成長がなされているかをよく確認し、キャッシュフローの実態を掴むようにしてください。

本連載は、2015年7月30日刊行の書籍『低成長時代を生き抜く中小企業経営9カ条』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

低成長時代を生き抜く 中小企業経営9カ条

真下 和男

幻冬舎メディアコンサルティング

経済成長や景気回復が報じられ、企業の倒産件数も減少傾向にあると言われるその裏で、休廃業・解散に追いこまれる企業の数が高止まりしている事実が隠されています。休廃業・解散は、経済状況悪化による事業継続困難という意味…

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