クリニックに「デキるスタッフ」はいらない【医療コンサルが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「デキる医事スタッフ」は貴重な人材であり、院長にとって頼もしい存在であることは間違いありません。しかし優秀であるがゆえに組織が機能不全に陥るケースも往々にしてあります。実務経験のある医事スタッフの採用が難しい昨今だからこそ知っておきたい「組織の作り方」について、医療機関コンサルが解説します。

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デキるスタッフに依存すると「退職されたら大ピンチ」

クリニックはギリギリの人数で現場を切り盛りしているため、ある業務ができるスタッフが一人しかいない状況を作り出してしまう傾向があります。その人がずっと働いてくれるならなにも問題がないのですが、退職しないという保証はどこにもありません。前もって退職の意思を伝えてくれていて、引き継ぎ等に十分な時間をかけられるのが理想ですが、家庭の事情等で急に退職することも考えられます。

 

万一そういう状態になっても慌てないように、日頃から備えておくのがベストですが、「今、問題になっていること」ではないので、先送りしてしまいがちです。この問題に直面したクリニックの事例をいくつかご紹介しましょう。

退職後にとんでもない事実判明…「業務丸投げ」の末路

1.「実務経験豊富」は偽りだった

Aクリニックの院長は、履歴書に書かれていた「医療事務歴10年」の実務能力を見込んで、新しいスタッフを採用しました。実際、働き始めてみても、患者対応もそつがなく、さすがは10年選手という安心感を感じさせてくれます。そこで院長がこのスタッフに受付業務を一任したのですが、それが失敗のもとでした。

 

3年後、家庭の事情でこのスタッフが退職することになり、後任のスタッフを採用しました。後任も経験者だったため、引き継ぎなしで実務に入ってもらいましたが、問題はこのときに発生しました。なんと、再請求するレセプトが引出しに入ったまま放置されていたのです。病名転帰もまったくの手つかずで、主病名が20以上のレセプトもあります。前任のスタッフは自身の過ちを隠したまま退職したのです。

 

院長は任せきりにしたことを反省し、複数のスタッフがレセプト処理を行う教育体制の構築に着手しました。

経験豊富ゆえ…「院長に確認すべきこと」を独断処理

2.スタッフが院長に確認せず、独断で処理している

Bクリニックでは、ベテラン医事スタッフのおかげで毎日と月に一度のレセプト処理はつつがなく行われています。しかし、ベテランであるがゆえに起こる問題もあります。

 

継続加療中の患者について、その医事スタッフが病名をつけて初診算定していました。コメント詳記もテンプレート化されているもの以外は、医事スタッフが作文しています。長年の経験から見当がつくのです。

 

しかし、これは本来やってはいけないことです。「事務方で勝手に判断しない」という約束を院長と交わしていましたが、忙しい業務の中ではなおざりになってしまっていたようです。最終のレセプト点検で院長が確認すべき項目なのですが、忙しさにかまけてその工程を省いていました。

役割分担の結果、「自分の仕事しかしない」状況に発展

3.「分業制」の名のもとに、嫌な仕事は避ける

Cクリニックでは4人の医事スタッフが働いており、うち2人がレセプト担当の常勤スタッフ、1人が介護保険の請求担当スタッフ、1人が午前中勤務のパートスタッフという構成です。開業してから約4年間、変わらぬメンバーでクリニックの事務部門を支えてきました。各人の業務を特定することで、専門性が高まり業務効率も上がるだろうという考えのもと、分業制を採っていました。

 

スムーズに回っていた現場に混乱が訪れたのは、介護保険の請求担当スタッフ(Xさん)が退職すると決まったときのことです。1ヵ月半後に退職を控えたXさんは常勤スタッフ2名に「引き継ぎをお願いしたい」という話を持ちかけましたが、心の中で「それは私たちの仕事じゃないんだから。仕事を増やさないでよ」と思っていることが見て取れました。

 

この問題が生じた根本的な要因は、分業制を敷いたところではなく、業務のバックアップ体制をとっていなかったところにあります。Xさんの退職をきっかけにチームの脆弱性が露呈したのです。

 

院長が現場業務をスタッフに任せきりにしていたことも問題です。実務処理を任せるのはいいのですが、役割分担は院長が決めた方がよいでしょう。スタッフは自分たちが働きやすいように仕事を組み立てていくからです。「専門性」「業務効率」といえば聞こえはいいですが、他人から干渉されず、嫌な仕事は避けられるような仕組みを構築しているに過ぎません。「私は私、人は人」という利己的な面が出てしまうのです。

デキるスタッフより「平均的なスタッフの連携」が重要

そもそも医事スタッフは自分の城を築くがごとく業務を抱え込み、他の人に渡そうとしない傾向にあります。自分しかできない業務領域を作り、“代えのきかない”ポジションを守ることで、自分の存在価値を守ろうとするのです。そういった気持ちを汲むことも大切ですが、「地力」のある組織を作るためには、定期的に職務の変更を行うジョブローテーション等により、特定の人にしかできない業務を作らないようにすることが肝心です。

 

極端な言い方をすれば、“仕事ができる”スタッフはいらないのです。もちろん、組織において、仕事ができる優秀なスタッフは貴重な存在です。院長としても安心でしょう。

 

しかし、優秀であるがゆえに、組織が機能不全に陥ってしまうことは往々にしてあります。リーダーシップを発揮して、他のスタッフを引っ張ってくれるのはいいのですが、自分にしかできない領域を作られてしまうと経営的にはリスクとなります。

 

また、医事スタッフのスキルに偏りがある状況は、スタッフ間の軋轢も生みかねません。スタッフ間のコミュニケーションギャップはなかなか表面化しにくく、経験の浅いスタッフが育つ前に辞めるケースも生じ得ます。そうすると、ますますベテランに依存した組織になってしまうのです。

 

要するに、「部分最適」を取るか「全体最適」を取るかの違いです。クリニックを持続可能な組織にしたいのであれば、「全体最適」を優先すべきでしょう。看護業務もレセプト業務も“仕事ができる”スタッフ1人ではなく、必ず2人で行い、OJTによりノウハウの共有や受け渡しができるようにしなければなりません。

 

未経験者ばかりでも困りますが、“仕事ができる”スタッフが引っ張っていくクリニックよりも、平均レベルのスキルを持ったスタッフ同士で支え合いながら(連携しながら)高めていける体制の方が、中長期的に見ると院内の業務、ひいては経営の安定化につながるのです。

 

そういった「全体最適」を目指す過程では、スタッフ間のコミュニケーションが活発になり、人間関係も円滑になるという副産物も生まれます。「クリニックはチームである」という意識を持ち、お互いが困っているときに手を差し伸べ合える関係性を作っていきましょう。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役 

会計事務所系コンサルティング会社にて、医療機関のコンサルティングを行う。

経営戦略立案、管理会計、人事労務ほか事業承継(M&A)も手掛ける。

また、各地区医師会やハウスメーカー、医療機器メーカー等で、セミナー講師として講演を行い、日経メディカルオンラインでコラム「開業の落とし穴」を第51回まで執筆するほか、日経ヘルスケアで「診療所経営駆け込み寺」を連載する等、セミナー講師・原稿執筆の実績も多数。

著者紹介

連載クリニック経営はレセプトが9割

※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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