(※写真はイメージです/PIXTA)

人口は減少する一方でも、クリニックの数は年々増加中。患者の奪い合い激化、診療報酬点数の引き下げ、人材不足…近年、「どんなクリニックでも生き残れる時代」が終わりつつあります。経営がどんどん難しくなっていく今後、クリニックを存続させるには、どうすればよいのでしょうか。経営成功のカギは、「医科の10年先を行く」と言われる歯科業界を見れば明らかです。

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「歯科業界の現状」は医科にとって「10年後の未来」

医療介護の業界は、国策による統制経済のもとで成り立っています。一部、自由に価格を定められる自由診療の領域はありますが、医療保険、介護保険制度に基づき一律の診療報酬が定められています。一時期に比べれば競争が激しくなったとはいえ、他の業種と比べると、まだまだ恵まれた環境におかれているといえるでしょう。

 

また、収入源となる診療報酬は貸倒れなく回収できるうえに、2ヵ月後には現金化されるため、現金の手元流動性が高いことも、事業の安定に一役買っています。開業の際に銀行が積極的に融資をしてくれるのも、仮にクリニック経営が上手くいかなくても、病院の非常勤ドクターになれば返済資金を十分稼ぎ出せるからです。

 

とはいえ、悠長に構えているわけにもいきません。「コンビニより多い歯科医院」というフレーズを一度は耳にしたことはあると思いますが、同じ医療分野でも歯科業界での競争は激化しており、今後も淘汰が進んでいくと考えられます。「歯科は医科よりも10年早く進んでいる」といわれているように、医科にとって歯科業界の動向は対岸の火事ではないのです。

 

ではなぜ、歯科業界ではそういうことが起こっているのでしょうか? 一言で言うと、歯科医師になっても十分な収入が得られる職場がないということにあります。大学病院や関連施設だけでは卒業生を雇い入れできず、開業医のクリニックで勤務するといっても、常勤で毎月数十万円を稼ぐのがやっとの状況です。先輩開業医も、設備投資の減価償却や借入金の返済を考えると、払いたくても払えないのです。それなら、いっそのこと開業しようと考えたところで、その道は平坦ではありません。積極的に分院展開する中規模、大規模クリニックが増えるとともに、「生涯勤務医」を希望する歯科医師が増えてきているのもその流れによるものでしょう。

成功しているクリニックに共通する「経営の概念」

生き残るために競争力が求められる歯科業界において、成功しているクリニックの多くは早くから「経営」の概念を取り入れています。理想の診療を追求するだけでは経営は成立しません。では具体的になにを行っているのか、いくつかの戦略を列挙してみましょう。

1.内覧会では、診療予約を取るところまでを目指す

イベントを行うことを目的とするのではなく、営業活動の一環として内覧会を開催する。「先生のファン」「クリニックのファン」を作るため、自院ならではの魅力を打ち出し、診療予約に直結するように内容をブラッシュアップする。

2.患者への説明ツールを充実させる

パターン化できる対応はマニュアルに落とし込むことで品質のムラをなくし、業務の標準化を進める。3アニメーションやシミュレーション画像等の最新技術を活用しながら、事前に起こり得るリスクや治療完了時のイメージを患者と共有し、より具体的な診療計画を立てられるようにする。

3.自由診療への積極的なアプローチ

自院の方針を明確にするためにも保険診療と自由診療に対する考え方を打ち出し、診療の選択肢に幅を持たせる。納得して治療に臨んでもらえるようにインフォームドコンセントを徹底し、診療内容の説明に時間を割く。

4.丁寧で質の高い診療は大前提。ホスピタリティの追求が差別化になる

院内のアメニティ等、ハード面だけでなく、人材育成によりハートフルな患者対応を追求する。ドクターと患者の間に立つコンシェルジュやを配置し、治療の説明やカウンセリングを行うことで患者の満足度を高め、ドクターの負担を軽減する。

5.ホームページ等、広告宣伝費にも一定額の予算を計上

新規患者獲得のため、数多くある歯科クリニックの中で選択肢の一つとして検討してもらえるよう、ホームページ制作のみならず、や動画等も活用した広告宣伝や対策にもコストをかける。

 

こう聞くと、医療とは別世界の「商売」じみた印象を抱かれたかもしれません。しかし、対人口比でのクリニック数は増えている中で、経営環境が厳しくなることは目に見えています。競争相手が多くなり、供給が需要を上回れば、必然的に患者を奪い合う状況が生まれます。不安を煽っているように聞こえるかもしれませんが、借金を返済し、スタッフへの給料を支払えば、現金がほとんど残らないというケースも出てきます。

 

開業にはさまざまなリスクが存在します。経営は生き物ですから、絶対的な成功の法則はありませんし、教科書どおりに上手くいくのであれば誰も苦労しません。経営努力をしても存続が難しい時代に突入しています。今後10年の間に、クリニックを取り巻く環境は加速度的に変化していきます。まだ余裕がある今のうちに経営感覚を養い、クリニックの現場に取り入れていきましょう。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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