【関連記事】何度「もう帰れ!」と怒鳴ったかわからない…「お荷物スタッフ」が「院長秘書」になるまで
クリニックで「経営改善のために人件費削減」は悪手
企業においては、収益率を高めるために「人件費を削減する」という発想はごく一般的です。近年、大手企業が軒並み、早期希望退職者を募集しているのも、クビを切らずに人件費を削減したいからでしょう。クリニックにもいえることですが、人件費は経費のうち非常に大きなウエイトを占めています。
しかし、クリニックにおいては、生活が脅かされるような状況を除いて「人件費の削減」は避けるべき手立てだと私は考えています。医療や介護は多くの人の手を必要とする仕事です。クリニックで看護師や医事スタッフを減らしてしまうと、サービスが低下し、医療の質が担保できなくなる可能性があるからです。
確かに試算表等を見ると、人件費はいちばん目につくところでしょう。自社調査ですが、平均的に内科では15%、整形外科では30~40%を占めていますから、「人件費を削りませんか?」と提案する税理士もいます。ただそこにメスを入れてしまうと、結果的にドクター自身にしわ寄せがくるのです。
「人件費をかけるメリット」はこれだけある
仮に内科クリニックで20%の人件費だとして、それはあくまでも数字上の話です。それは必ずしもマイナス要因ではなく、むしろ手厚い医療サービスの源泉となり、患者満足度を高めているかもしれません。ドクターが自分のしたい診療をするための投資と位置づけられるかもしれません。
また、「正社員になりたい」と希望する医事スタッフがいる場合も、頭を悩ませるでしょう。パート勤務という不安定な立場による定着率の低さを改善するために、社員登用するのも一つの手だと思います。人件費がかさむのはネックですが、定着率の他にスタッフのモチベーション向上が期待できる他、自分自身の人事・労務面でのストレスや労力を減らすこともできます。
人件費はドクターが安心して診療に専念し、健全経営を続けるための「安心料」。そう捉え直してみてはいかがでしょうか。
経営改善には「スタッフとの協力」が不可欠
クリニックの経営状態を改善するのは、経営者自身です。しかし、クリニックは組織でもあるので、他のスタッフの“協力”が欠かせません。
当社では、クリニックのスタッフ向けに、接遇マナー研修も行っています。というのも、クリニックのスタッフは企業のような体系立てた研修を受けていないため、一般的な接遇マナーですら身についていない人が多いからです。見方を変えれば、標準レベルのマナーさえ身についていれば、他のクリニックとの差別化ができます。しかし、真の狙いは、研修を通じて醸成されていく一体感がクリニックの組織風土として根づいていくことです。
ドクターが開業することで大きく変わる一つの要素として、スタッフとの関わり方が挙げられます。勤務医時代は、職種は違ったとしても、お互いに「雇われている側」でしたが、開業医になると「雇う側」と「雇われている側」に分かれます。そこには天と地ほどの差があるといっても過言ではありません。「雇う側」と「雇われている側」、いわば労使の関係になると、お互いの利害が対立することになるからです。
勤務医時代であれば、同僚として軽く聞き流していれば済んだ愚痴や不平不満は、開業医になった途端、直接的であれ、間接的であれ、その矛先が向けられます。そして、それに対する対応いかんによって、経営者としての度量や才覚を測られるのです。
その中身は「XXがない(できていない)からできない」等、他力本願な姿勢に基づく言い訳めいた内容だったとしても無下にするわけにもいきません。だからといって、自分一人で背負う必要もありません。
必要なものは必要としている人が作ればいいという考えのもと、「なければ自分たちで作る→みんなで共有する」プロセスを繰り返して、働きやすい環境を自分たちで作っていけばいいのです。マニュアルが必要であれば作成したり、患者からのクレームは全員で共有して善後策を検討したり…。
要するに、一人ひとりがクリニックの一翼を担っているんだという実感のもと、クリニックの課題を「自分ごと」として捉えてもらえれば、指示を出さなくてもスタッフは動いてくれます。これを習慣化することで「スタッフが自ら育つ」組織風土が醸成されていくのです。
決して、パートスタッフしかいないから皆でなにかに取り組むのは無理だと、はなから諦めないでください。どんなに小さいことでも、各々ができることをすればいいのです。地道で泥臭い積み重ねこそ、「強いクリニック」を築くいちばんの近道です。
柳 尚信
株式会社レゾリューション 代表取締役
株式会社メディカルタクト 代表取締役
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】