(※写真はイメージです/PIXTA)

患者の奪い合い激化、診療報酬点数の引き下げ、人材不足…クリニックの経営環境は厳しさを増す一方です。これからの時代、院長に「経営」の意識があるかどうかが、クリニックの明暗を分けると言っても過言ではありません。いつ分業や医療法人化を検討すべきか、院長の退職金作りや後継者探しを始めるべきか、閉院か承継か、いつまでに答えを出すべきなのか。予測困難な時代だからこそ「クリニックのライフサイクル」を押さえ、具体的な経営プランを描いておきましょう。

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院長に「経営意識」がなければ廃院リスクは高まる一方

病院の場合、企業と同じように多種多様な職種や部署がある組織なので、「経営」を考えなければ上手く回っていきません。ハード面、ソフト面を問わず、さまざまな現場改善の手法に取り組んでいるようです。

 

一方、クリニックも複数の職種が集まる組織でありながら、組織立った動きはあまり取られていないのが実情です。ひとえにそれは、クリニックが“個人商店”であり、先生一人の頑張りでなんとかなってしまうからです。コロナ禍で痛手を負ったクリニックも多いと思いますが、それでも倒産しないのは、院長が自分の報酬を減らせば解決できるからです。クリニックが1000万円の赤字であっても、院長の給料を1000万円下げれば帳尻を合わせられるのです。要するに、切羽詰まっていない状況が、開業医の人たちを「経営」から遠ざけてきたのです。

 

コンサルタント会社や会計事務所等はそこにつけ込みます。私は毎年開業セミナーの講師として登壇していましたが、主催している企業の方に、「毎年同じ話をさせてもらっていますけど、つまらなくないですか?」と聞いたところ、「聞いている人が毎回変わるので、これでいいんです」という答えが返ってきました。それで商売が成り立ってしまう業界だからこそ、前時代的なレセプトチェックの方法がいまだに残っているのでしょう。競争にさらされにくい業界構造が、クリニックを進化から遠ざけているのです。

 

企業を相手にするコンサルタントは厳しく結果責任を追及されるため、日頃から自己研鑽が欠かせません。一方、クリニックを相手にしている医療コンサルタントは、胸を張っているわりには、30年前とやっていることがまったく変わらず、流行りのビジネス書すら1冊も読まない。そんな”楽”な仕事をしていても十分やっていけるのです。

 

しかし、時代は変わりつつあります。口コミサイト等の登場で、クリニックはこれまで以上に患者から「選ばれる」存在になっています。近隣に競合クリニックが開業し収益が一気に下がったり、非常勤ドクターで施設在宅のオペレーションを行っていたクリニックが、報酬改定により収益が悪化しクリニックを閉鎖したり…。こうした外部環境の変化が、クリニックの息の根を止める可能性はゼロではないのです。

通常20~30年で「閉院」または「承継」

コロナ禍に代表されるように、未来は不透明で予測不能なものですが、経営者は想定されるリスクに対して備えていかなければなりません。そのためには、できる限り具体的に未来を描くことが求められます。

 

クリニックの場合、院長の後継者がいなければ閉院することになります。M&Aで買い手が見つかれば受け継いでいくことができますが、上手くいくとは限りません。約20〜30年といわれるクリニックのライフサイクルを念頭においたうえで、未来に思いを巡らせてみましょう。

開業2年後あたりから「医療法人化」や「分院」を検討

1.創業期(勤務医から開業医へ)

クリニックを起業します。銀行から多額の借金をして開業しますが、「収入が安定しない」「患者が少ない」「スタッフが言うことを聞かない」という悩みに苛まれます。この時期は自転車操業状態なので、お金を自由に使うこと等考えられませんし、スタッフの入退職も頻繁でなかなか定着しません。辛抱の日々が続きますが、経営者になるためのトレーニング期間だと捉えてみてください。

2.安定期(2年後~10年後)

開業して2年も経つと、収入も安定し資金の心配をすることがなくなってきます。ある程度余裕が出始める頃で、診療以外のことにも気が向いてきます。クリニックの場合、近隣に脅威となる競合クリニックができたりしない限り、収入が大きく変動することがなく、平穏な状態が続きます。

 

しかしこの時期は、将来を見据えた「舵取り」を考えるべきタイミングです。「医療法人化」「分院戦略」「クリニックの拡張」…。事業の拡大を考えているのであれば、ここで戦略を立てて実行し、実現させなければなりません。資金や人材の確保が必要となるでしょう。もちろん、拡大せずに今のキャパシティを維持するという選択肢も考えられます。「第二創業期」と捉えて、設備投資を行うとよいでしょう。

「開業10年後」あたりでリタイア準備をスタート

3.成熟期(10年~20年)

開業してから10年間の投資期間を経て、いよいよ刈り取りの時機が訪れます。個人、法人を問わず財産形成を真剣に考えていく必要が出てきます。勤務医であれば、給料や社会保険(健康保険+年金)、退職金は病院が用意してくれますが、クリニックの院長の場合は、自分で用意しなければなりません。すべては自分のクリニックの収益から賄われるという意識は常々持っておいた方がよいでしょう。

4.衰退期(20年~25年)

院長一人で診療しているクリニックでは、収入が落ちてくる時期です。電子カルテをはじめ、ほとんどの医療機器は5年ごとに買い換える必要があります。しかし院長の年齢によっては、買い換えも慎重にやらなければなりません。5年後に閉院を考えているのであれば、多額の設備投資を行っても水泡に帰すだけです。リタイアする時機を見据えた準備も怠らないようにしましょう。後継者がいなければ、候補者を探し始める時期です。

5.リタイア(25年~30年)

閉院するのか、継承するのか、答えを出さなければならないタイミングです。候補者の選定から引き継ぎまでには数年必要です。第三者に継承するのであれば、クリニックを継承する2年前くらいには見つけておきたいところです。閉院するのであれば、スタッフが再就職するための就活期間も考えてあげましょう。辞めるタイミングは、新規開業をするときよりも決断力が求められるのです。

 

 

柳 尚信

株式会社レゾリューション 代表取締役

株式会社メディカルタクト 代表取締役

 

 

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※本連載は、柳尚信氏の著書『クリニック経営はレセプトが9割』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

クリニック経営はレセプトが9割

クリニック経営はレセプトが9割

柳 尚信

幻冬舎メディアコンサルティング

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